第7話 π

「手、繋いでください。」


教授から言われて私と彼は戸惑った。


私たちのクラスは男女混合且つ、なぜか男女共に奇数だからだ。


ペアを組むとなると必然的に私と彼が男女混合になる。


もちろん私が彼らより1学年上でかなりアウェーなのを知っていて、教授も采配しているのだろう。


そうこうしているうちに、周りはどんどんとペアができていく。


今回はペアで楽しむリズムが目標だ。


男女だからとか関係ない。


私は彼が何も言わないのを察して、自ら手を差し出した。


「私が相手じゃ嫌かしら?年下くん。」


彼は何を言ってんだこの人は…と呆れた顔で私の手を取った。


「相手が俺でいいんですか?」


私に言わせようとしているのが分かり、なかなか彼もやるなあと思った。


「君が良いんだよ。」


微笑みながら伝えると、彼は顔を赤く染めていた。


教授の声がけで、私たちは実技を始めた。


鼓動とリズムの両立、そして歌いながらコミュニケーションを楽しむこと。


いつのまにか彼は赤い顔から笑顔に変わっていて、時折私の健康状態を心配してくれていた。


「こうた君、手冷たい。」


手が冷たい人は心が暖かい人だ、と昔から言われているなあと思いつつ軽く握った。


「でもなぎささんの手、暖かい。」


「そう?」


「小さくて暖かいです。」


「褒めてるの?それ。」


「心が暖かいから手も暖かい、です。」


またひとつ、私の中に円運動で構成された50円玉ほどの澱みが増えた気がした。


「こうた君は、手の温もりが心にいっぱい届いてるんだね。」


彼はまた顔を赤くして、くるりと回った。







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