第2話 円周
くるくるくる
ぴょんぴょんぴょん
くいーん
私に語彙力があるならば、このような表現は使わないだろう。
講義中というものは暇なもので、学ぶべきことは耳に入るが、教授のひとくちアドバイスのようなものはスルーされてしまう。
そんな時、友達は決まってペンを回している。
重力や万有引力に逆らいながら、彼の指に包まれた一本は自由自在に身体を動かしている。
「ねえ、どうやって回してるの?」
小声で聴くと彼は優しい声色で私に教えてくれた。
「ふふ、慣れです。」
「慣れか…。」
慣れるまでが大変で、私は不器用なため諦めることにした。
「やってみますか?」
ペンを持つ私の手を簡単に包み込める彼の大きな手のひらで、ふわふわと動かされる私のペン。
「なぎささん、持ってみて?」
私は彼に促され、ペンを持った。
彼はペンを持った私の手ごと、ペンを動かした。
普段は可愛らしく、女性の私よりも女の子らしい彼からの物理的な力は私に自分の性別を自覚させた。
「なぎささん、手小さい。」
笑いながら私の手で遊ぶ彼は可愛らしくて年頃の男子だと感じた。
「小さくない、普通だよ。」
なにも考えるな、何も感じるな、ただこの時間が終わるまで。
私は自分に言い聞かせた。
心の中で円周率を唱える私を彼は知らないのだろう。
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