はっきりさせる時が必要な時もある
アナベルがとても素敵な人でしたねぇと両手を組んでドキドキした様子で、部屋に帰るとそう言った。
「ほんとね。噂に違わず、美しい人だったわ」
私も同意した。そしてやけに静かなエリックの方を私はくるっと向いた。アナベルがこれだけ褒めているのだ。男であるエリックの方がもっと騒いでも不思議ではないだろう。なにせ男性がひと目見ると魅了される美しき女王といわれているほどなのだから。
「エリックは女王陛下を見て好きになったりはしないの?普通の殿方なら騒いでしまうほどの美しさだったと思うんだけど」
エリックはえ?と私とアナベルを見た。
「えー、まぁ、美人だよね」
私はにやりと笑う。エリックが私の笑いを見て、顔をひきつらせた。
「エリック、私の推測だけど、言ってもいい?」
「なっ。なんですかね!?」
私に見抜かれていることをこの賢い護衛騎士は気付いている。ならば隠しているより言ったほうがいいだろう。ときにははっきりさせておいたほうがいいこともある。
「エリックはこの地域出身だと言ったわよね?女王陛下に仕えていたか見たことがあったんじゃないの?」
「うっ……これだからリアン様は嫌なんだ。あ、いや、そういう意味じゃなくて、なんといいますか、触れてほしくない過去といいますか」
私は椅子に座る。いつもお調子者で飄々としているエリックが珍しく眉をひそめて難しい顔をしていた。
「私が危惧していたのは、あなたがシェザル王国の女王陛下が気に入ってしまって、私の護衛に身が入らないんじゃないかなって思ったことなのよ。でもその様子では、女王陛下の美しさに慣れているようだから安心したの。ただそれだけ。あなたはエイルシア王国の三騎士の一人で、ウィルバートに忠誠を誓う騎士でいいのよね?」
「もちろんですよ!!それはもう絶対に!!……なんで今さら、こんな確認されてるんですかね?僕、なんにもしてないと思うんだけどな……」
「あなたの力が必要になるから、確認よ。エリックはこれから忙しくなるわよ!」
エリックがいやーな顔をした。
「そういう嫌な予言をしないでくれませんか!?リアン様がそういうってことは……ここでなにか起きるってことですよね?」
「まだ起きてないからなんとも言えないわ」
「リアン様のそういうのって当たるからなぁ……。まあ。僕の方は安心してください。実はここの騎士団に入団したけど、すぐ辞めたんです。なんか僕の気性にあわなくて。こういう性格でしょ?真面目でお堅いのは合わなくて、傭兵になっているところをトラスが声かけてくれて、そこからエイルシア王国に流れついて陛下に目をかけてもらったわけなんですよ。僕がここの騎士団に入った時は女王陛下はまだ幼かったなぁ……だからその時のイメージのほうが強くて、成長されたなぁという程度ですね!」
頬をかくエリック。
「僕のこと女好きだって思ってるかもしれないですが、違いますよ?女性の方から僕によってくるだけです」
アナベルがエリック様って……と言葉を濁す。
「言葉を止めなくていいのよ。アナベル、エリックにはっきり言ってやりなさい」
エリックがえ?なんだろう!?とアナベルに言う。アナベルは遠慮してなんでもありませんっ!と慌てている。
「はっきりさせるほうが良い時もあるのよ」
私が促すとアナベルが言う。
「エリック様って……ナルシストなところがあるんですねぇって……ああああああ!すいません!すいませんっ!はっきり言い過ぎましたよね!?落ち込まないでください!?」
エリックががっくりとうなだれる。
「この王妃様とその腹心のメイドに関わると、僕の調子が狂うよ。間違いなく騎士団人気ナンバーワンの僕なのになぁ……」
ぶつぶつとつぶやく護衛騎士なのだった。
「でも……さすが三騎士と言わざるを得ないかも……」
え?とエリックが聞き返すが、私は肩をすくめて、なんでもないわと笑った。
だけどこのやりとりは私の中で冗談やからかいなどでは決してなかった。エリックを本当に信頼したかったからなのだ。この先、エリックを頼ることが起きる。そう私はこの時、すでに予感していた。
それが当たったのは、女王陛下と3日共に食事会、パーティー、名所の視察などを゙楽しみ、帰国しようとした時だった。
私のお世話をしてくれていた、シェザル王国のメイドが私の部屋で倒れて亡くなっているのがみつかった。もちろん嫌疑は私にかかった。
そして私は予定通りに帰国するわけには行かず、シェザル王国に足止めをされることとなったのだった。
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