朝は暗いそして本は落ちる
外は雪。しんしんと静かに降積もる。厚い雪雲に覆われていて、暗く朝になるのが遅い。
つまり暗くて寒い分、ぬくぬくとしたフィールドからでたくない。
「リアン様、起きてくださーい!」
それを破るかのようにアナベルが起こす。
「もう少しお布団のぬくぬくさを味わいたいの。まだ外も暗いじゃないの」
「ここがシェザル王国だから暗いのです!雪も降っているから天気も悪いですし……って、枕から手を放してくださーい!」
「やだやだやだ。静かで暖かいとか最高すぎるものー!」
「もうすぐ朝食持ってこられるんですよ?いつまでもエイルシア王妃が寝てるとおもわれたら恥ずかしいでしょう?」
「捕まって憂いているってことにしといて!」
「こんな元気そうなのに憂いてるとか通用しないでしょう!?ほら!部屋は暖かくしてありますから!」
私とアナベルのやりとりはしばらく続き、外がまだ暗くて雪がしんしんと降ってて、お布団の温かさは神レベルで最高なのに、悲しいけど私は起きることになった。
朝食を持ってきたシェザル王国のメイドに『おはようございます』と何事もなかったように優雅に言えたのはアナベルのおかげたろう。
まったく怠惰な……と朝食後にアナベルのお小言が始まろうとしたときだった。
バコッと音がして本棚の一角が崩れた。アナベルがキャッ!と小さく叫ぶ。私は音が外に漏れないように唇に指を当て、アナベルに静かにするようにと合図する。そしてそっと落ちた本棚の本をよけて、棚をどかした。
バサバサッと本が床に落ちたが、今はそれを拾うより大切なのは……。
「そろそろ来るだろうとおもったわ」
ケホッケホッとホコリを吸い込んだらしいエリックが壁から顔を出した。
「その落ち着きぶりは、僕がこうやって来ることわかってたんですね!?最初っから説明しといてくださいよ」
ヒソヒソと壁の隙間から顔を出して言うエリック。
「だから確認したじゃない。あなたはここで働いていたことあるのよね?って……」
「それだけで、よく僕が身を削ってここに来るってわかりましたね!?」
「三騎士だもの。あなたの能力はわかってるわ」
「褒めてます?」
半眼になるエリックに私は時間がもったいないわと言う。
「エリック、あなたがいてとーっても心強いわ。だから頼むわよ。私からのお助けアイテムを渡しておくわ」
「その手のものは……ま、まさかっ!」
可愛いこちらの国のメイド服とカツラと化粧道具を壁のスキマから手渡した。
「まっ、また女装ですかーー!?」
「これが一番忍び込みやすいわ。さあ!情報収集にレッツゴーよ!」
「絶対楽しんでますよね?」
早く行きなさいと私に促されるエリック。
「くっ……ウィルバート様に特別手当つけてもらいますからっ!」
そう言い捨てて、去っていった。アナベルと私は何事もなかったように本棚を元通りにしたのだった。
「アナベル、そっちの本はこっちの列よ」
「あっ!は、はい」
「その本は左の一番下」
「えっ?まさかリアン様は本の配置すべて覚えているのですか?」
「ええ。覚えてるわ」
すごいです!というアナベルに私は本を手早く片付けながら言った。
「ここに隠し通路の窓あることは、誰が知ってるかわからないわ。城の隠し通路はだいたい暖炉や棚の後ろにあるものだけど……でも私たちが気づいてるとバレてはだめなの。本の位置が大幅にズレていたら、開けたなとわかるでしょう?多少本を手に取るだけでは本の1冊か2冊入れ違いがあっても本の位置までは変わらないわ。面倒だけど、しっかり元の位置に戻すことが重要よ」
「さすがです……あの……気になっていたんですけど、リアン様はエリック様の来る時間までわかっていたのですか?」
「わからないわよ。なんで??」
「余裕な様子で寝坊していたので、来る時間までわざとゴロゴロしていたのかなと思いました」
「……外が暗いとゆっくり寝れちゃうものなのよね」
「リアン様らしいです」
そして私の昔ながらのメイドは言った。
「捕まるのリアン様は慣れちゃった様子ですね。頼もしいです!」
……あまり慣れたくはないですと思う私なのだった。
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