大国の強さを見せたい王

「リアン様が捕まったそうですね」


 コンラッドが一報を聞きつけて、すぐにエイルシアへ来訪してくれた。駆けつけたというのが正しいかもしれない。


「そうらしい。なんでも殺人容疑をかけられている」


 オレの一言に厳しい顔つきになるコンラッド。


「申し訳ありませんでした。ユクドール王国が放っておいた国がこんな暴挙に出るとは思いませんでした。もっと早く、あの国を沈めておくべきだったんです。リアン様は必ず取り返します」


「なんでコンラッドが行く!?リアンが捕まっているんだ。エイルシア王国が片をつけてくる。こちらでどうにかする。もしなにかしてほしいことがあれば後から……おい!?」


 コンラッドが怒った顔で、珍しく踵を返して帰っていく。 


 シェザル王国まで軍を出す手筈、内部へ潜り込ませる部隊をオレはすでに用意してあった。リアンを取り返しに行くのに迷いは微塵もない。だが、ミンツ先輩が『陛下、落ちついてください。半日待ってみてください』と言ったので、待っていたらコンラッドが来た。こういうことか……とオレは気付いた。


 オレよりもコンラッドの方がイライラとしているように思えた。さっさと対処しようとしなかった自分を責めているようにも見える。コンラッドの背中を追いかける。


「待て!コンラッド、落ち着け」


「たかだかあんな小さい北国を放置してしまいました。身の程を思いしらせてやります」


「いや。今は動くな!おまえ、冷静じゃないだろう?あっちはリアンという餌を目の前にぶらさげて……思うが、本当の狙いはオレかコンラッドかのどちらかだぞ!?」


「愛するリアン様が捕まっているのに、やけに冷静に考えているのですね」


 オレの昔なじみのコンラッドはオレをよく知っている。だからこそ、オレが案外、冷静にいることに違和感を覚えている。


「そうだな。自分でも冷静だなって思う。リアンのことは心配だが、頭の中は冴えている。熱くはない。リアンが自分から行くと言った。この意味は何なのか。オレにはわかる。リアンがオレにどう動いてほしいのかだけを今、考えている。リアンの策の中ではユクドールには動いてほしくないと思う」


 今回は盤上の駒にキング二つはいらないだろう。オレはリアンの頭の中にある盤上の世界を思い描いて、コンラッドを止める。


「今回は落ち着いているかもしれませんが、ウィルバートだって蛮族を狩る時や内乱をおさめるためには、容赦ないことをしていたでしょう?知っていますよ。僕が……いえ、ユクドール王が甘いと思ってもらっては困ります。他の周辺諸国にもしめしがつかなくなる。同盟国の王妃を捕まえ、ユクドール王国の国境に兵を集め……それだけじゃありません」


 昔のことを言われたらオレはコンラッドを否定することができず、一瞬言葉に詰まる。


「……他になにがあった?」


 コンラッドは顔をしかめる。


「先日からネズミが捕まるんです。どこの者か吐かせたらシェザル王国の者なんですよ。面白くありません」


「ユクドール王国と敵対してシェザル王国に利はまったくないと思うんだが、なぜだと思う?」


「そんなこと知りませんよ。しかし一つ思い当たるのは暖かい土地が欲しいのかもしれません。凍る港しかもたないシェザル王国は高い税を払ってユクドール王国の港を冬季は貸しています」


「それは……」


「ウィルバートならタダで貸しますか?」


「……時と場合による」


「それが王の判断ですよね。温情をかける時、かけない時を判断する。長年、それでよしとしてきたのに、あっちが不満に思うなら交渉する術もあったでしょう。それをしてこないで、嫌なことをしてくるんですから、ルール違反しているのはシェザル王国ですよね?」


 コンラッドのユクドール王としての絶対的な強さをみせつけたいという思惑も見え隠れするような気がした。止めたい。相手は何かを考えている。


「コンラッド、オレが行く……のでは不満か?」


「止めないでください。今回は僕に任せてください。ユクドールの強さ。見せてやりますよ!周辺諸国に見せしめの意味も込めてます。ウィルバートも即位したときには苛烈なまでに東西南北の蛮族を平定し、屈服させたでしょう?今や。おとなしいじゃないですか。牙を失くした獅子ですか?僕は獅子王であるウィルバートも好きでしたけどね」


 何を言ってもコンラッドは聞かないとばかりに、ではと言って、去って行ってしまった。


 クロエにリアンにコンラッド……胃薬がオレには必要じゃないか?苦々しくどんよりとした空を眺めたのだった。

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