懐柔してみせよ

「重要な話なんだよな?」


 ラッセルに対して、多少不機嫌な声になってしまった。


「王妃様との時間をお邪魔してしまい、申しわけありません」


 こいつー!絶対心から思ってないことを言ってるだろ!?イラッとした顔をしかけて耐える。


 くっ……仕事、仕事だ!心を強くしろ!とオレは自分に言い聞かせる。


「いいや。かまわない。それで?」


 なんてことない風を装った。……王だからな。


「北のシェザル王国から陛下あてに手紙が届いたのです」


「この4カ国が集まってる時に話題になる国から、偶然届く手紙なんてないな。手紙をよこせ」


 オレは諦める。これは確かに気になることだった。ラッセルもそう思ったから、待てなかったのだろう。


「はい」


 ……まったく。こっちへ送ってくるとか、もう巻き込まれてるじゃないか。コンラッド、片付けるならさっさと片付けてくれよと嘆息したくなる。


 パラパラッと読む。……ふーん。


「これをリアンに渡して読んでみてくれと伝えてくれ」


「……嬉々として読むでしょうね」


「ラッセル?」


 なんでもありません。余計なことをいいましたとラッセルは肩をすくめた。


「いいや?思うところがあるなら言ってくれてもいい。そんな狭量な王でないと思うが?」


「リアン王妃を関わらせすぎではありませんか?」


「手紙の内容が彼女に関係している。『女同士で話したいことがある』」 


「え!?それは……」


 オレははぁ……と額に手を当てる。


「これをリアンに秘密にするべきか言うべきかなら、オレは言うべきなんだろうと思う」


「いったい……なぜ?王妃を?」


「おまえの言う通り、関わらせすぎてるのかもしれない。リアンの手腕は隠しているつもりだが、噂は広まっている。リアンと話をしてみたいという者はかなりいる。オレの本音は後宮に閉じ込めておきたいさ。だが、大人しくしているタイプか?」


「いえ……えーっと……しかし王妃が自ら……」


 ラッセルもリアンとの付き合いは長い。


「ああ……なるほど……かなり前にミンツ先輩は『リアン様はウィルバート様を守りたいだけなのさっ!彼女はわかってる。国を守ることが王様を守ることだってね!』って言ってました」


「他には?」


「『妬けるねぇ〜』と言ってました」


 ………。


 ……ミンツ先輩はリアンを気に入りすぎている。気をつけよう。


「彼女の思いはわかってる。なによりその能力も。さて、手紙を届けて、彼女の意見を聞いてきてくれ」


「かしこまりました」


 一礼して出て行くラッセルがリアンの言葉を持って帰ってきた。


「なんて言ってた?」

 

「『懐柔せよ』だそうです」


「なるほど……そっち路線で行くわけか。しかたない。エリックを呼べ!リアンを護衛するための精鋭部隊を編成させろ」


 ラッセルがハイ!とオレの指示を聞いて駆け出す。

 

 シェザル王国からリアン王妃の訪問を強く願う女王の要望がある。そしてリアンは招待を受けるつもりだ。行かせたくない……怪しい動きをしている場所へ行かせたくない。そうオレの中では言っているのに、リアンを止めることなどできない事もわかってるし、後宮内でおさまるような彼女ではないことも理解してる。


 やれやれ……わが国の女性はリアンといいクロエといい強すぎる。


 普通の王妃なら戸惑うところをきっと彼女の頭の中はすでにいろんな策で埋まってるんだ。行く前から始まっている。リアンの戦いというものは。

 






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