父と息子のため息
「うちの女性達、強すぎるよな」
お父様がはぁ〜とため息をついている。クロエに続いて、お母様も外交のために城から出るからだろう。
憂鬱そうなお父様とは真逆で、さっき見たら、お母様は嬉々として荷物の用意をしていましたよと伝えるのは、ちょっとかわいそうに思えたから、言わずにおこう。
同意してほしくて、僕のところに来たのに違いないから……何も言わず、頷いてあげることにした。
「そうだ。ウィリアム、これ外遊してきた時に見つけたお土産だ」
美しい装本の図鑑を渡してくれた。繊細なタッチで花々や草木が描かれる表紙。
「こ、これって……」
僕は驚いてお父様の顔を見た。
「なんで驚いているんだ?ウィリアム、植物や小動物好きだろ?」
「僕の好きなもの知っていたんですか!?」
当たり前だろ?とお父様は笑った。でも知っていることが当たり前じゃないことを僕はわかる。いつも忙しくて、あまり一緒にいれないのに、好きなものを知っているってすごいことだと思う。優しいお父様。
かと思えば……。
「そうだ!後から剣の手合わせするか?」
「絶対嫌です!お父様とは絶対に絶対に絶対にっ!嫌です!」
お父様の誘いを全力で拒否った。いつものごとく、お父様の後ろに影のようにたたずんでいたセオドアがボソッと僕に同情的な声をあげた。
「自分のお子様といえど、剣の手合わせ、陛下は乱暴ですし、勝たせてあげないですし……」
「父として負けられないだろう!?父の威厳がなくなるだろ!?それに、オレは倒せるものなら倒してみろ!どんどん斬り込んでこい!ってガルシア将軍に教えられたから、そういう教え方しかできない」
「ガルシア将軍の教え方は獅子である我が子を崖から突き落として、這い上がったところをさらに突き落とす!みたいなやりかたで、我々も死にそうだったでしょう?」
「そうだったが、オレ達は強くなれただろう?」
そうですが……と額に手を当てるセオドア。トラスが教えてくれてるからいいです!と首を振って、再度拒否した。トラスの剣さばきは正攻法すぎないか?と僕に振られて、お父様は寂しそうになり、ブツブツ言っている。
「それにあんまり僕は武芸は好まないのです」
「そんな感じだな。だけど、襲われた時に最低でも自分の身くらい守れないと、おまえの周囲の者が死ぬぞ」
「そ、そこまでいいますか!?」
優しいお父様の目がフッと玉座にいる時の目になった。
「大事にしているものを守りたいなら強くなるしかない。王が最後に信じられるのは己しかないからな」
「お母さまのことは?セオドアは!?」
ピンッとお父様に額をデコピンされる。痛っとおでこをおさえる。
「そういうものを含めて守りたいだろう?がんばれ。未来のエイルシア王」
お父様は何かもっと語りたいことがあるような表情をしていたが、それ以上語るのをやめて、そろそろ時間だからと退室していった。
僕は時々思うんだ。
クロエが男に生まれ、王になればよかったのにって。
僕にはできない。ああやって、自分で世界を見たいからと飛び出していったり、自分の好きなことを堂々としたりしているクロエは本当に輝いている。あんな強い精神力と行動力のある王様ならみんなうれしいんじゃないかな?こんな弱い僕でいいのかな?
下を向くと、お父様にもらった美しい図鑑があった。本の表紙を撫で、お父様と同じような重いため息を僕も吐いたのだった。
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