父と息子は困惑する
「お父様、時間ありますか?」
オレが執務室にいるとウィリアムが顔を出した。トラスが後ろに控えている。出迎えに現れなかったので、今、ちょうど勉強が終わったところなのかもしれない。リアンいわく、ウィリアムはとても真面目だと言っていた。
「もちろんだ!ウィリアム久しぶりだなぁ。ちょっと大きくなったんじゃないか!?」
オレが抱きしめようとするとスルリとかわされた。
「2週間ぶりで大げさです。もうそんな歳ではありません。お母さまと同じようなことしないでください」
リアンもしたのか!?オレとリアンって……。いや、でも2週間ぶりだし、オレはギューとだきしめるのを許されてもよくないか?トラスがやれやれと呆れた顔をしたので、やめとこう。さすがに三騎士に示しがつかなくなるのは困る。威厳を保とう。
「話があるんです」
「ああ……座るといい」
執務室のソファーにちょこんと腰掛けるウィリアム。話ってなんだ?まさかウィリアムも『旅に出ます。探さないでください』状態になるんじゃないだろうな!?
「クロエ、ずるいです」
ほら、きたぞー!オレは頭を抱えたくなる。
「僕が一生懸命、王になるために勉強しているのに、クロエは自分の好きなことばかりしてるんです」
「あ、ああ?ウィリアムもそうしたいのか?」
だよな。そうなるよな!オレの頬に一筋の汗が流れる。
「いえ……僕は自分でわかってるんです。クロエほどの行動力もないし、気弱だし、怖がりだし……」
オレは目を見開いた。この目の前の少年はいつかみたことがある姿だった。ガルシア将軍ならこういうだろう『ウィルバート様の小さい時にそっくりだ』と。母が亡くなったからオレは変わらざるを得なかったが、もともとは甘ったれた弱い子どもだった。
「王になれるのかな?っていつも不安なんです」
そうだ。オレもそう思っていた。
「なれるさ」
即答していた。ウィリアムがうつむき加減だった顔をハッとしたようにあげた。
「ウィリアムはオレの幼い頃によく似ている。それゆえ、王になるまでに苦しいことや辛いこともあるかもしれない。オレだって王になるのは不安だった。だけど王になるには一人ではなれない。己の足りないところを知っていれば、自然とそれを補うものが現れる。必ず、ウィリアムを助けてくれるものが現れるさ」
「本当に?」
「ああ。一人で戦おうとしないほうがいい。オレは思うが、双子の姉のクロエは一番の味方になると思う」
そうだ。クロエはリアンによく似ている。だから旅に出たんだ。またリアンは旅に出したんだと今、気付く。このまま王宮にいたところで、学ぶことは限られている。あの娘はわかっているのかもしれない。自分のできることを探しにいっているんだ。本当にリアンによく似ている。
「クロエが?僕と喧嘩ばっかりだけど?」
「今はそうかもな。ウィリアムのこと、オレは誇りに思っている。ちゃんとした王になろうと頑張っているのがわかる」
甘い言葉すぎるかな?本当は厳しくしなければならないのかもしれない。王になるということは優しいだけでは務まらない。いつかこのウィリアムを突き放す時がくるかもしれないなとオレは寂しい気持ちになる。オレの父もそうだったのか?厳しかったオレの父の姿が思い浮かぶ。
「お父様、ありがとうございます」
少し照れたように頬を染めるウィリアムが可愛すぎる!心を鬼にして厳しく……できるかなぁ?ちょっと自信がないなと思っていると、ウィリアムがでも……と言った。
「クロエはそのうち結婚してこの国からいなくなるんじゃないんですか?」
「えっ!?いや!絶対に嫁にはやらないーーーっ!」
とっさにオレはそう叫んでしまっていたのだった。
これはこれでクロエは大変かもしれないとウィリアムが呟いていた。
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