彼は私を理解しすぎてる
「ミンツ先輩に何か言われた?」
ウィルは勘がいい。私のことに関しては特にいい。厄介な能力である。
「なんにもないわ。昔話をして、ゲームをしただけよ」
ふーん……となぜかウィルは呟いて、静かになる。護衛としてその場にいたセオドアにどんなやりとりをしていたか、きっと聞いてるのよね?聞いていないのかしら?
もうすぐ行われる4カ国での調印式のために忙しい彼は、お茶の時間しか私と顔を合わせられなくなっている。
それでも私に疲れた顔は見せず、にっこりと笑いかけてくる。お茶の香りと美しく飾られた花々がテーブル上にあり、心地よくてゆったりとした空気が流れる。
「あの……ウィル?」
「なんだい?」
優しい目で私を見る。愛おしむように……言いにくい。いや、言わないと!
「みんなの気遣いは嬉しいんだけど、強制的に私を怠惰にさせるのは止めてほしいの。逆にストレスなの!」
そう!怠惰に過ごすというのは、みんなにお膳立ててもらってする怠惰のことではないのよ!
「怠惰に過ごすって深いことなんだな」
ウィルは難しいなと呟く。
「ウィルに隠しても、きっと私のことをわかってるから、言っちゃうけど……言うけど……」
「うん。言っていいよ」
彼が私が言ってくれるのを待っていたよとばかりにほほ笑む。やはり私の胸の内のことなんて簡単にバレている気がした。
「私……私だって、4カ国でしようとしていることに参加したいし、知りたいし……ううん。それだけじゃなくて、なんだか最近、すべてが蚊帳の外って感じで……あ、でもわかってるのよ?私の役割は国政じゃないから、口を挟むことをしちゃいけないのかもってことも……」
「つまらない、退屈、寂しい気持ちになってるってわけだな?」
たぶんそうなのだ。ウィルと一緒にこの国について考えたいのに、私は怠惰にしてろと追い出されてる気持ちになっている。こんなこと思うなんて、私、子供っぽいかしら?
「アハハ!だよなぁ。やっぱりリアンには無理だよな」
可笑しそうに笑い出すウィル。最初からわかっていたよとでも言いたげな優しい視線。
「リアンはリアンらしくいればいい。本当はゆっくり怠惰に過ごしてくれるのが一番安心だし、良いんだけどね。オレは君が思ってる以上に心配症なんだ」
怠惰に過ごしたい。でもそれを強制されるのは嫌ってすごくワガママかしら?でも……。
「ミンツ先輩が来てくれたから、私、無茶しないし、頑張りすぎないって約束するわ」
「そうしてくれるか?……期待してないけどね」
ウィルはハハッと笑ってからお茶を一口飲む。
「もう!ウィルってば!!」
途中からウィルが私のことをからかっていることに気付いた。
「怠惰推進月間は終わりかー」
そう軽く言う彼。
やっぱりウィルは私のことを私以上に知りすぎている。
「よーし!私、明日はダムの視察に行くわよ!」
頬杖をついていたウィルの手がズルっと落ちる。
「いや、リアンの性格を理解はしてるつもりだけど……違うだろ!?張り切りすぎないでくれ!」
え?許可を得たんじゃなかったの?私は首を傾げると頬に一筋の汗を流すウィルはため息をついてボソッとやっぱり怠惰にさせとくべきか?と小さく呟いたのだった。
そして4カ国の調印式は近づく。時代が変化していく時がやってきている。すぐそこまで。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます