絵は語る

「陛下、今、世間で人気のある絵師が、この国を訪問してます。会って絵を見せたいというのですが、どうでしょうか?」


 宰相の言葉に、仕事中だったが手を止め、顔をあげた。


「どんな絵なんだ?」


「ユニコーン、人魚、妖精などの幻想的なものだそうです。その絵師が描く世界は美しいと評判なんだそうです」


「へぇ……オレはあまり絵には興味はないが、子どもが産まれたら家族の肖像画を描いてもらいたいと思っていたから見てみようかな」


「家族の肖像画?……うーん。じゃあ、時間の無駄じゃないかなぁ?」


 ミンツ先輩が口を挟んできた。宰相がムッとした顔をした。


「なにか無駄なんですかな?ミンツ殿?」


「いや〜、その絵を見たいっていう気持ちは同じだけど、陛下の目的とは違うかなって思ったたけだ。貴重な時間をとる必要はあるかな?」


「陛下が望んでいるのに余計なことを言わないでください」

 

 半眼になっている宰相。ミンツ先輩は仕事ができるのに、どうもこういう性格のせいで皆から煙たがられることがある。


「その評判の絵は見てみたい気持ちはある。皆で見てみようじゃないか。仕事の息抜きも必要だ」


 オレのその一言で、皆で見ることになった。リアンも呼ぼうと思ったが、昼寝中だったから起こさないでくれと頼んだ。リアンの怠惰を推進してる身としては、怠惰な行動は尊重したい。


 絵師が何枚も大きな額縁にいれた絵を披露していく。


 空に浮かぶ城へ向かうユニコーン。透き通る青い宝石のような海の岩場に座る人魚。色とりどりの鉱石に囲まれていて、掘り出すドワーフ達など……どの絵もしばらく魅入ってしまう。


「素晴らしい絵ばかりだ」


「現実の世界を忘れてしまいそうになる」


 周囲も絵の良さを褒めたたえ、ざわつき出した。そんな中、ミンツ先輩がさらりと言った。


「空想の馬か……本物の馬を描いてみてくれないかなっ?どんな感じになるのかなっ?」


「空想の物はどのようにでも描けますが、本物を描くことはそっくり同じように似ていなければならず、空想絵師には難しいものです。お許しください」


 宰相の目が見開いた。ミンツ先輩はうんうんと頷いている。


 なるほどな……。


 実在する人物を描くのは誰もみたことのない実体のない空想の物を描くのとは違い、難しいだろう。ミンツ先輩は最初から、そう言いたかったのだ。


「そうか。わかった。肖像画は王家御用達の絵師にする。だけど美しい幻想世界の絵画は確かに素晴らしい出来だ。1枚買おう。どこかの部屋に飾らせてもらうことにする」


「ありがとうございます!」


 感謝し、平伏する絵師だった。ミンツ先輩はさー、仕事仕事ぉ!と言いながら部屋へと帰っていく。


 後から『なんで起こしてくれないのよー!私も流行りの幻想世界の絵画鑑賞をしたかったわ!』そうリアンが叫んだのだった。人気の絵は人魚ものを購入していた。それはリアンの部屋に飾った。


 その人魚の美しい表情がリアンに似ていることは彼女に内緒だ。遠くを見つめている人魚の横顔はまだ見ぬ世界へと想いを馳せているように思えた。その表情はリアンが、何かを考えている時の雰囲気と同じなのだった。


 追記すると、この絵の事件後、宰相のミンツ先輩に対する態度が少し軟化した気がした。

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