表の顔裏の顔

「陛下!城門に怪しいやつがいます!」


 数日後に大きな帽子をかぶっていて、門兵に怪しい人認定された者が訪ねてきた。正門から堂々と『陛下のお召により参上したぞっ!』と言うやつがいると報告された。


「ミンツ先輩だな。怪しい人ではないから、通せ」


 聞かなくても見なくてもわかる。


「もうその喋り方と風貌は他にいないでしょうね」


 セオドアまでもが、そう言う。


 しばらくすると通されたミンツ先輩が謁見の間へやってきた。飄々とした雰囲気で入ってきたが、帽子を頭からとり、胸の前に置き、目を閉じて一礼してオレに敬意を払う。


 こういうこともちゃんとできるのに、普段はしないから他の人に変な人だとか怪しい人だとか言われるんだよなあ。一応、形だけでもすればいいのにと思うが『肩が凝る。その労力を他に使えば良いとおもわないかいっ?』という感じの返事をすることは予想できすぎるから聞かない。


「ミンツ先輩!来てくれたんですね。助かります。ありがとうございます!」


 ラッセルが嬉しそうに言うとパチッとアメジスト色の目を見開いた。


「別にラッセルのためじゃないよっ!……陛下、お召により参上致しました」


 そう言うと膝をついた。軽い口調と服装に騙されるが、こうして礼をとると、驚くほど様になる姿だった。もしかして欺くためにしてるのか?リアンの怠惰設定と同じ匂いがしなくもないと苦笑してしまう。


「顔をあげて、立ってくれ。頼んだのはこちらだからな。よく来てくれた。心強く思う。存分に力を発揮してくれ」


 階段状の玉座にいるオレを見上げるミンツ先輩は明るい顔をした。そして言われたとおり立ち上がる。


「玉座の間に通されて君がそこに座っている現実。……そっかー。ウィルが王様かー。ホントにそうなんだなー。リアンはどこにいるんだいっ?」


「後宮にいる。ここへは滅多に来ない」


「言い方がちがうよ。来れないんだろっ?」


 ………確かに。そうだ。後宮に入ってしまった彼女はここへは来れない。来る時は王妃として必要な時だけだ。ミンツ先輩の物言いに周囲がざわめく。


「あんな無礼な口を陛下にきくとは!」


「何者なんだ!?」


 オレは席から立った。


「本当の無礼というものは、表向きは笑顔で人当たりの良い事を言って媚びへつらい、心のなかでは侮り、蔑んでいることだ。オレはどんな者であろうと、この国のために働いてくれる信頼できる者がほしい」


 シンと静まり返る。


「いいか?出世したいなら、オレが望んでるのは表向きの優しい言葉や態度なんかじゃない。心から民を想い、国のために尽くそうとする者だけだ」


 は、はいっ!と返事をし、慌てたように臣下たちは胸に手を当てて膝をつく。


 優しい言葉だけくれて裏切られるのはもうたくさんだと思う。幼い頃にもう嫌というほど味わった。


 本物の王、なんだなぁとミンツ先輩がオレを見て、面白そうにニヤニヤしていた。


 ……いや、そういう態度はやりにくいです。ミンツ先輩。

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