お茶が出来上がるまで

 ミンツ先輩の家は質素なもので、椅子と机、家具はあまりない。本だらけで、積みあがっている。


「あのリアンと結婚したのがウィル……陛下であったのは良かったよっ!まあ、別に興味もないんだけどね!リアンが後宮へ入ると聞いて、もったいないなーと思ったんだっ!あんな才能を眠らせておくなんて、もったいなさすぎるよ。むしろ女性にしておくのがもったいなさすぎるよ。ああ……1日中リアンと議論させてほしいねっ!楽しいだろうなあ」


 カップにお湯をいれようとしてポットの外へこぼして、おっと!と慌てるミンツ先輩は力をいれすぎている。


「閉じ込めてしまった……とは感じていることだ。だけどどうしても傍に置くことは必要だった」


 ミンツ先輩はハハーンと笑った。


「さては……人材のスカウトといいつつ、リアンが王国の内政や外交に心配しないようにしたいわけだなっ!?ウィルはいつもリアンを見ていたからなぁ~。いやぁ~。相変わらず主人を追いかける可愛すぎるワンコみたいなやつだねっ!」


「無礼だぞ!誰にそのような口をきいてっ……」


 おっと、失言しちゃったかなと笑うミンツ先輩。


「セオドア、良い。ミンツ先輩は無礼で言ってるわけじゃない。事実だし、こういう遠慮なく言う性格なんだ。……まあ、それもあるし、ラッセルも大量の仕事に追われていて、過労死しそうなんだ。どうか王宮へ来て、手を貸してほしい」


 四か国でやろうとしていることをミンツ先輩に説明すると目を見開いた。


「いいねっ!おもしろいねっ!なかなか、エイルシア王達はおもしろいことを考えるね!退屈しなさそうだし、バカな王でもないし、付き合ってもいいかな」


「バカ!?!?王族に!?やっぱりこんなやつは!!!」


 セオドアが信じられないという眼差しでミンツ先輩を見た。こんなやついらないだろうと見ているのは間違いない。


「セオドア、待て、落ち着け」


「ウィル、良い側近を持ってるねっ!ちゃんと君のために怒ってくれてる。ボクも君の側近になっちゃうのかな?このお茶が出来上がるまで考えさせてくれるかい?」


 カップを手渡された。中に丸い実のようなものが入っている。セオドアももらう。


「なんですか?この実のようなお茶の葉は?」


 オレは喋らぬようにと、静かにと、人差し指を立てた。シンと静まりかえる部屋。ミンツ先輩は両手でカップを持ち、椅子に座り、ニコニコ微笑んでいる。


 湯気が立ち上る。ゆらゆらと白い湯気が揺れる。


 オレもまたカップの中を見つめる。


 ポンッとカップの中に1輪の花が咲いた。


「これは……花が咲いた!?」


 セオドアがそう言った。良い香りがする。オレは一口飲んだ。


「花茶はどうだいっ?」


「美味しいし、香りが良い。気に入った」


 オレがそう言うと満足げな顔をするミンツ先輩。


「だろう?……このお茶を気に入らないやつには仕えないぞっ!東の国へ旅したときにみつけて、大事にしまっていたお茶なんだよ。ウィルはわかるやつだなぁ。良いだろう?だけど約束してくれたまえ!バカで愚かな王にはならないとねっ!このボクが君に仕えるんだ。それは絶対に許さないよっ!」


「ああ……努力する。ミンツ先輩がいてくれると心強い」


「あ、あと、この態度は改めないよ?いちいち王様の顔色を伺っていちゃ、いい仕事なんてできやしないよ!もちろん、畏敬の念は持っているから安心してくれたまえ!」

 

 なんでいちいち偉そうなんですかね!?とセオドアはピリピリしている。


「かまわない。かしこまったミンツ先輩の姿をみたいわけじゃないからな」


 アハハッと明るく軽く笑うミンツ先輩は家を片付けてから、城に来ることを約束してくれた。


「いいんですか?あんな無礼な人を雇うなんて?信用できますか?」


 セオドアが胡散臭気な顔をした。


「見た感じは無礼だが、時と場合を考えて変えることができるし、ミンツ先輩が仕えると約束すると言うことは、心から忠誠を誓ってくれている。あの人はそういう人だ」


 人の力を今は集める時だ。国を治めるためには人の力が必要だ。ラッセルは忙しさを理由に人材のスカウトを薦めてきたが、良いタイミングだった気がする。


 ミンツ先輩はお気に入りらしい古びた大きな帽子を『これは必要なやつだぞっ!持っていくぞーっ!』と言いつつ、大きなトランクの上に投げたのだった。

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