その者は変人かそれとも賢人か

 オレとセオドアはさっそくラッセルに教えてもらった場所へ行く。あらかじめ、紹介状を書いて届けてもらっている。訪問することを知らせてあるのだが……。


 玄関のベルを押しても出ない。小さな家は質素なもので、草がもしゃもしゃと生えている。


「人、住んでますよね?家、間違えてませんよね?」


 セオドアは首を傾げる。オレは頬をかく。


「ちょっと家の周りをうろつこうじゃないか」


「陛下が来ることを知らせてあるのに、無礼ではありませんか?」


「ミンツ先輩はそういう人なんだ。たぶん、何かに夢中になっているんだろうと推測できる」


 家の周りを歩くと、容易に見つけ出せた。朝食なのだろうか?手にサンドイッチを持ってかぶりついている。木の下にいて、地面を見ている。


「あ、あの人ですか!?」


「ああ。そうだな。ひさしぶりだなぁ。ミンツせんぱーい!!」


 呼びかけたが、顔を上げない。その代わりに手に持ってる大きなパンにハム、レタス、キュウリ、チーズを入れたサンドイッチをもう一回がぶっと噛んだ。大きい帽子が揺れる。


「陛下を無視した!?」


「いや、聞こえてないんだ」


 邪魔しちゃ悪いか。オレはしばらく離れて待つことにした。セオドアがそわそわしている。


「忙しい陛下を待たせるなんて……」


 たまにはのんびり日光浴もいいさとオレは空を見上げる。今日は天気が良くて良かった。鳥が空を飛んで行く。白い花に虫がとまる。


 しばらくたった時だった。


「あれ?ウィル!?久しぶりだなぁ!!」


 アハハと笑う声がした。目までかかりそうなほど伸びた栗色の髪、アメジスト色の目が懐かしい。


「ミンツ先輩、お久しぶりです。何をしていたんですか?」


「ん?見ていたのか?アリの動きを見ていた。横から攻撃されても隊列がもとに戻るだろう?どうやって戻っていくのか、研究していた!戦の時に敵に横から奇襲されると隊列が乱れて浮足だつだろ。それをどう立て直すかアリで学んでいたんだっ!ついでに明日は雨だ。アリの行列があちこちにながーく作られているからなっ!」


 セオドアが変人……とボソッとつぶやくのが聞こえた。たった今、オレとラッセルが言っていたことが真実だったと知ったらしい。


「あれ?ウィル、おまえの恰好なんだ!?お偉い貴族様みたいに立派じゃないかっ!かっこいいぞー!」


「エイルシア王国の王だからね」


 ピタっと時間が止まった。


「えええええええ!?おまえがーーーーーっ!?」


 ミンツ先輩の声が近所に聞こえるぐらい響いた。セオドアが半眼になる。


「陛下、ほんっとに優秀な人なんですか?引き返すなら今ですよ!?」


「いや、優秀なのは間違いないんだけどさ……うん……間違いないはずなんだけどなぁ」


 この姿を見て、説得するのは難しいとあきらめ。オレはセオドアの肩をポンポンと叩く。


「そういえば王が訪ねてくるって手紙に書いてあったな」


 そういってミンツ先輩はにっこり笑うと、大きい帽子を頭からとり胸の前で抑える、地面に膝をつく。


「エイルシア王にご無礼をしたことお許しください。どうぞ。むさくるしい家ですが、お茶でも用意しましょう」


 ミンツ先輩の礼の形は完璧で美しかった。セオドアが無言でその姿をみつめたのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る