陛下の至宝

 朝になり、いつも通りの時間に執務室へ行った。そこにはラッセルがいて、執務室の前に直立不動で立ち、深々とオレに礼をした。オレは何も言わずに部屋へと入った。 


 後ろから静かについてくるラッセル。


「やってきましたね」

 

 セオドアがボソッと小声で言う。


「あの……陛下、最後にウィルと話をしてもよろしいでしょうか?これより先は陛下と王宮政務官の立場としてしか付き合わないことをお約束します。もちろん私塾の誰にもいいません」


「構わないが、なんだ?」


 オレはそう返事しながら、やはりそうだよなと思った。私塾の誰もが王として会うと王と臣下に必然的になってしまうんだなと寂しく感じた。仕方ないことだ。それを越えてくれた人が一人、オレの傍にいるのだから、それでいいじゃないか。


 ラッセルは意外な事を口にしだした。


「ウィル……ずっと大変で孤独で辛かったことに気付けなくてごめん。見ていた俺が一番理解してると勘違いしていた。穏やかで呑気な顔をしていたのはリアンがいたおかげだったんだな」


「うん。そうだね。別にラッセルが謝らなくていいよ。僕は君が悪いなんて思うこと、望んじゃいない。私塾は楽しかった」


「リアンの才能、運、力はこの国にとって宝だ。ウィル……手放すな。見失うな。認めたくないが、リアンがいる国は間違いなく発展する。そう思う。他国に渡すな。ある意味武器となりうるかもしれない」


 大袈裟だなと笑おうとしたが、やめた。思い当たる節はある。


「悔しすぎるが、リアン以上に王であるウィルに相応しい者はみつからないだろう……俺は王であるウィルをウィルとして見れないのに……リアンは……なぜだなぜ見れる?……別人だろう?なぜなんだろうか……それだけがわからない」


「ラッセル、そんなに僕とウィルバートは違うかな?」


「違う」

 

 即答かよ……。そんなにか!?ウィルは確かに腑抜けてたかもなぁ。でも唯一あそこは気が抜くことができる場所だったからなぁ。


「じゃあな。ウィル……これより先は王宮政務官として勤めさせてもらいます。陛下。偉大なるエイルシア王国の獅子王」

 

 そう言って頭を垂れた。


「うん。さようなら、ラッセル」


 ウィルとして最後に挨拶する。長く頭を垂れ、顔を上げないラッセルにオレは淡々と言った。


「いつまで、そうしているつもりだ?仕事をしろ。オレはおまえの能力を買っている。失望させるな」


「はい。陛下」


 恭しい返事をされる。王と臣下の距離感。


 ありがとう。ラッセル。おまえのおかげで、ウィルとウィルバートがオレの中のどのあたりにいるのか気づけたよ。

 

 そしてオレの何よりも大切で尊い宝も。

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