私の名前を呼んで
朝までウィルが私の部屋に居ることは、珍しい。しかも私より遅く起きるなんて……疲れてるのかしら?
時々、王宮政務官や王宮魔道士たち。宰相やガルシア将軍、三騎士、セオドア、最近耳にするラッセルのように、私も実務の手伝いができればもっと彼を助けられるのにと思う。
サラサラの髪にそっと触れると、ぱちっと青い瞳が開いた。少し頭を重そうに顔をしかめて起き上がった。
「ああ……朝か……寝てしまってた」
「おはよう。ウィル、なんだか疲れてない?顔色があまり良くない気がするわ」
「いや、夢見があんまり良くなかっただけだよ」
「どんな夢を見たの?」
私の問いにしばらく間があり、何かを隠すようにフフッと優しく笑って誤魔化して、なんでもないよと言った。
「それより水を一杯もらえるか?」
私が水差しから水を入れて、手渡すと、頭をスッキリさせるように水を飲む。
「私には言えないの?最愛の妻には言えないの?隠し事なの?」
「そう言われると……どうしたんだ?いつもなら、ふーんって感じだろう。今日は追求するのか?」
いつもそうだったかしら?まあ、そうかもしれない。基本的にウィルは王様だから話せないこともあるだろうとひいていた部分もある。夢のことくらい聞いてもいいわよね?え?だめなのかしら?
ウィルは嘆息した。
「そんな大した話じゃないんだ。……昔話だよ」
そう言って、語ってくれたのは爽やかな朝には合わない話だった。相手の食料を奪って、自分達の物にし、戦に勝ったと……餓死する者が出たり、その地が荒れるたりすることもわかっていてやったと。そこまで語った。
「見事な作戦だと思うわよ」
ウィルが私の言葉に顔を上げる。褒められると思っていなかったと言わんばかりの顔。
「リアン……でも……」
「戦において、皆が幸せになれる策なんて、なかなか難しいわ。私、エイルシア王国の昔の内政状態はあまり良くないと知ってるの。過去のデータを遡って見せてもらったもの。あなたのことを獅子王と民たちが称えるのは、ウィルバートが必死で民と国を守った結果じゃないの。それに私も同じことをするわ。お金もなく食料もなく、相手が攻めてくるならば、それしか作戦はたてれない。手数が限られるわ」
プッとウィルバートは突然、吹き出した。アハハと笑う。
「戦の分析されると思わなかったよ!やっぱりリアンは変わってる」
「なによ……慰めて愛の言葉を囁かれると思った?」
「うん。少しだけ期待したかな」
茶化す元気が出てきたようだったので、私は少しホッとした。
朝日が差し込む部屋で、私は言った。
「ウィル、今度苦しいことがあったら、迷わず私の名前を呼んで。どこにいても私はあなたのところへ駆けていくと約束するわ」
「100人分の力を貰うような気分だよ。ありがとうリアン。嘘じゃなくて、本当にそう思う」
励まそうとした私が逆に嬉しくなる言葉をくれる彼には負けてる気がする。それも自然と何も考えずに言っているのが伝わる。
私のウィルが好きって気持ちが、傷ついている彼を少しずつ癒やしていってくれることを願うわ。彼はすべてを語らないけれど、私の知らない昔のウィルバートには辛いことがたくさんあったことを私は気づいている。
だから、どうか辛い時は隠さないで、私の名前を呼んで。希望が遠くなるならその希望を私が連れてきてあげるから。
ねぇ?ちゃんと私は私の役割をウィルのために果たせてる?
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