もっと向かっていくだけ
父王はあまり政治に熱心な人ではなかった。だからオレが引き継いだ時、国は荒れていた。
王になったばかりのことを浅い眠りで、夢に見ていた。久しぶりに昔馴染みであるラッセルに会ったことで思い出してしまったのかもしれない。
「今年はどのくらいの穀物が収穫できた?」
オレの問いに宰相は汗を拭きながら答える。その様子からして、良い答えではないことはわかる。
「こちらに……」
各地域の収穫量……少ない。これで今年は乗り切れるか?今年は雨が振らなかった。他国から買って乗り切るか?しかし財政は苦しい。金もない。
ギリギリか……と思う。そこへエキドナ公爵から手紙の返事が来ていた。国内最大の領地を持つ彼に、援助を頼んだのだ。
答えは否。手紙で頼む前からわかっていた気がした。エキドナ公爵領は他の領地と違って、余裕があることを知っている。だけど公爵は出さないだろうということもなんとなくわかっていた。
悪態をつきたいのを我慢する。
「陛下、北の蛮族の動きが怪しい。国境に集まってきているそうだ」
次に来たのはガルシア将軍だった。代替わりした途端に、蛮族の動きはさらに活発化している。若い王だと侮られているのだろう。
「わかった。派兵をしよう。今回はオレが行く」
「陛下、自ら!?そりゃ、かまいませんが、内政のほうも寝ずにしているようで、大丈夫ですかね?」
将軍がポリポリと頭を掻く。大丈夫か大丈夫じゃないかなど、関係ない。オレがしなければならないというだけだ。
「相手はオレの力を測りにきている。平伏するに足る王かとな。見せてやる時だ。子供などと思わせておいて、痛い目みせてやる」
ハッと鼻先で笑う。
「しかし、派兵には食料がいります。足りないでしょう!?」
宰相に心配するなとそれだけを告げた。
北の蛮族の平定はすぐに終わった。帰ってくるとガルシア将軍が待っていた。
「食料庫をまず何よりも先に狙ったんだな?食料が無いなら、現地調達すりゃいいってことか……相手の食料を奪ってきたとか?」
「その通りだ。こっちから食料を輸送する金もかからないし、相手にもダメージを食らわせられる。一石二鳥だ。なんといっても腹が減れば兵の士気が下がるからな」
「冷静にそんなこと考えていたのかよ」
ボソッと将軍がつぶやく。
オレはなにがなんでも、先へ進まなきゃいけない。死にたくないから、先へ進むだけだ。
だけど優しいウィルは心のなかでウィルバートに言っている。僕たちが奪ってしまったら、相手が餓死するんじゃないの?と。
勝利したあとの村や町を馬で駆けていくと幼子を抱いた母親が大きな目をしてこちらを見ていた。
……だからなんだというんだ?
優しさや憐れみなど捨てて、オレはオレの守るべきものを守らねばならない。
自分の心の在処をいつか忘れてしまってウィルが消えてしまっても、抗い、向かっていくだけだ。
思っていたより道は遠そうだと灰色の空を見上げた。
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