帰還する時

「迎えに来てやったぞっ!なんだよ。俺の出番無しかよー!」


 シザリア王国の船が港にあらわれた。シザリア王が船から降りてきた。


「無かったなぁ……」


「くっ……夜に乗じて逃げるという想定や、他国の船に追いかけられても振り切る自信があったのに!無論、攻撃されても反撃して勝てる装備品も備えている!」


 オレの隣りにいるリアンが相変わらずシザリア王は血の気多いわねぇと半眼になっている。


「海賊らしいセリフですね。さっさと国まで送ってくださいよ」


「海賊じゃねぇよ!おまえに言われなくとも、神速最速で送ってやるよ!」


 コンラッドに淡々と言われて、シザリア王がムキになる。


「やろーども!準備は良いかあー!?」


 船に向かって声をかけると、おおーっ!と威勢のいい声が聞こえてきた。その掛け声からして、海賊っぽいことにシザリア王は、いつ気づくのだろう?と思ったが、言わない方が面白いから言わないでおく。


「えーと……シザリア王、コンラッド、力を貸してくれてありがとう。感謝の意を伝えさせてくれ」


「口頭での説明をせず、失礼をしましたが、お付き合いしてくださり、ありがとうございます」


 オレがそう言うと、リアンも横でスッとドレスの裾を持ち頭を垂れてお礼を述べ、お辞儀した。二人の王はにやりと笑う。


「なんのことだ?帰路のついでにハイロン王国に立ち寄る用があっただけだ」


「滞在費の支払いみたいなものですよ」


 ただ……と二人の視線はリアンに向けられた。


「滞在を延ばされていたのが、このためだったなんて、本当にエイルシア王妃は恐ろしいですよ」


「ほんとだぜ!ふつーにエイルシア王国を楽しんでいたってーのに……油断も隙もねーな……外遊と称して、タダで休暇を楽しめるチャンスだったんだが……」


 リアンはウフフと手を口元に当てて、麗しい淑女となって笑う。


「こんな大掛かりになることは、望んではおりませんでした。お二方は、いざという時の保険みたいなものだと最初は思ってました。まぁ……世の中、タダより怖いものはありませんわよね」


 他国と繋がっている可能性は低いと思っていたリアンだったらしい。しかし事は予想していた最悪のコースへと進んでいった。保険扱いされたコンラッドとシザリア王は苦笑した。


「ほぅ。これがシザリアの船か。噂に違わぬ立派な船だな」

 

「ん?ハイロン王か?……我が国の船の良さがわかるとは良いやつだな!」


「船にあまり乗ったことがなくてな……」


「おう!それなら、船内をちょっとみせてやるぜ!」


 砂漠と海の国の王、2人は変に気が合って、談笑しだす。ハイロン王は見送りに来ていた。その中に一人の侍女がいて、リアンに近づく。


「リアン様。お元気で……」


「ここでの生活、アイシャがお世話してくれたおかげで寂しさを紛らすことができたわ。ありがとう」


 なるほど。リアン付きの侍女だったらしい。エリックいわく、オレとリアンの夜の逢瀬を手引してくれたという侍女か?従順に胸に手を当てて、大人しい顔をしながら、リアンとオレにだけ聞こえる声で言った。その言葉は表情とは全く、正反対の面白がるような口調だった。


「このアイシャの働きが良かったと思われましたら、どうか、当主によろしくお伝え下さい」


 ………世界商人か!!クラーク男爵の顔が思い浮かんだ。


 リアン様、お元気でとアイシャが告げた。少しだけリアンは寂しそうな顔をした。だけど相手の本業は商人である。侍女ではないから連れては帰れない。


「リアンに尽くしてくれて礼を言う」


「単なる侍女にもったいない言葉でございます……リアン様と過ごした時間、なかなか有益でありました。これが王妃でなく商人であったならば当主の後継者となりえましたのに。ただそれが惜しいです。エイルシア王、リアン様が、いらなくなった暁には、ぜひ世界商人へと」


 単なる侍女ではないだろう。世界商人の中でも腕利きの商人であることは、今回の働きにおいてもわかるため、苦笑した。しかもリアンをさらっと商人の道にスカウトしていく。

 

「悪いけど、そういうことにはならないな」


「でしょうね……王自らが、ここまでいらっしゃるとは思いもしなかった。エイルシア王の行動力、素晴らしいです」

    

 そう小さな声で、会話し、スッと離れた。


 リアンは誰にも渡さないし、誰にも譲れない。


「おーい!みんな、乗船しろー!」

 

 シザリア王の声がした。青空のもと、金色に輝く砂の王国が遠ざかっていくのを見た。リアンと共に帰れて良かった。


 おかえり。リアン。帰ろう俺達の国へ。

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