断罪される者は叫ぶ
ベラドナが暗いジメジメとした牢の中にいた。オレとリアンが現れると、目がギョロリと動いた。汚れた手でガシャンっと鉄格子を掴んだ。
「………っ!?どうやって!?どうやってもどってきたのです!?この汚い血の女は!?エイルシア王家に相応しくない商人の娘はまだこの国にいるのですか!?誰か!その娘を今すぐ王宮から追い出してー!」
狂ったように叫ぶ。金切り声が響く。
「私はウィルが……エイルシア王がいらないと思うまで傍にいて支え、共に、この国を良くしていきたいと思ってるわ。あなたはいらないものを排除するつもりだったんでしょうけど……」
「子の一人も産めぬ王妃が笑わせる!何を偉そうに言っているんです?この国を良くしていきたいと思ってるなどと口ばかりのことを!!エイルシア王家の栄光のためにわたしはしてきたのです!長い長い人生を賭けて!それをこんな小娘にめちゃくちゃにされるなんて!」
狂ったようにリアンに激しい言葉を浴びせる。当のリアンはまっすぐに緑の目を゙向け、無表情で微動だにしない。
「ベラドナ!口を慎め!己がしてきたことは決して許されるものではない!人としての心もなく、エイルシア王家にとって必要なことだったなどとは到底思えない!」
オレは怒鳴り返したが、ベラドナは伸び切った爪を震わせながら、何がおかしいのか笑いながらリアンを指差す。
「いずれあなた達以外の王族が、エイルシア王家を乗っ取りにきますよ。その時まで愛だの恋だの支え合って手を取り合って……なんて可愛らしいことを言っていればいいのです。このベラドナがいたからこそ、エイルシア王家は守られていた!感謝すべきなのです!それなのに……それなのに……こんな………」
オレ以外の王族?……どこのどいつが、まだ狙っていると言うんだ?顔を思い浮かべるが、怪しいと思えば誰も彼もが、怪しく思える。すべてを疑い出してしまいそうな自分が怖くなって、思わず無言になってしまった。
昔、ニコニコ笑って近寄ってきていた優しくて大好きだった叔父のエキドナ公爵も変貌した。唯一、助けてくれそうな父には殴られ、突き放された。裏切られた時の記憶の傷は決して小さくはない。そして2人はもうオレの傍にはいない。次は祖母か……オレの傍にいるものはどんどん不幸になっていってないか?次はもしかしてリアンかもしれない……いや、そんな馬鹿なことをあるか?
愛しい人すら失うときが来る?
悲しみと不安に揺れかける心をオレは隠すように奥歯を噛みしめる。
リアンがガシャンッと鉄格子を拳で叩いた。その音にハッ!とし、現実に引き戻される。
「あなたのその思い上がった考え方で、孤児院の子どもたちは奴隷にされて売られ続け、エキドナ公爵はあり得ない王の夢を見させられ、ウィルバートの母は殺されて、ウィルバート自身も苦しめられてきた。もしかしたらエイルシアの前王も、あなたが考えた悪夢のような罠の中に入っていたのかしら?……どれだけの人が不幸になり、犠牲になってきたのか?してきた罪の重さを感じないなんて、どうかしてるわよ!私は言っておくわよ!ウィルバートの可愛い子どもを何人も作って、エイルシア王家を安定に導き、平和で怠惰に過ごせるようにするわ!私はあなたの策など恐れないわよ!」
彼女の睨みつける気配はいつになく殺気立っていて、ビリビリするくらいの魔力の力を感じる。すごく怒っている。今までこれだけ怒ったリアンを見たことがない。
ベラドナすら、一歩下がった。
「あなたとは違う方法でエイルシア王国を守ってみせるわ!素敵なウィルバートと可愛い子どもたちと怠惰に過ごしてみせるわよっ!この天才的な私がやってみせるわ」
そうか……そんな未来図描いてくれていたんだな。突然、丘の上に登ったようにスッキリとした景色が見えた。リアンとの幸せな日々が見渡せた気がした。
「ウィル?なんで、険しい顔つきが緩んしゃってるのよ?あなたが長年苦しめられてきたんでしょ!?もう少し言ってやりなさいよっ!」
「へっ?……あ、ごめん。さっきまで怒っていたんだけど、リアンがあまりにも良いこと言うからさ……そうか……オレと子どもたちと……」
リアンにキッと睨みつけられて、コホンと一つに咳払いした。
「ベラドナ、おまえは極刑だ。なんなら、オレ自身の手で、首を跳ねてやっても良い。好きな刑法を選んでおけ。さ、リアン、もう行こう。あまりこういう場所へ君を連れてきたくないんだ。もうすぐ消える命の火を大事にしておけ」
いやああああー!と叫ぶベラドナの声が響いたのだった。オレはその牢を振り返ることはなかった。
血の繋がった者たちがいなくなっていく。王は自分のすべてを賭けているのに、失うものが多すぎる厄介なものだ。
だけど……そうだな。家族をこれから作ることもできるだろう。リアンのプンプン怒ってる横顔を見ながらフフッと笑ったのだった。
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