剣を持って舞う時
「雨が降らないため、水の値段が酒よりも高騰している。酒を水代わりに飲もうではないか」
金色の盃が差し込む光を反射させて輝く。コンラッドが贅沢ですねぇとほほ笑む。美しい布を被り、黄金の腕輪をした女性が零れんばかりに液体を注いだ。
「ハイロン王国とユクドール王国の絆を深め、互いに栄華を極めんことを!」
堂々とした明朗な声で高らかに盃を掲げるハイロン王。
「ウィルバード、そんなギスギスした雰囲気、やめてくださいよ。バレますよ?ポーカーフェイス!ポーカーフェイス!ですよ」
「善処してる」
挨拶の言葉の合間にオレに囁くコンラッド。的確な忠告に聞こえるが、顔はニヤニヤと笑みを隠しきれず、オレの表情を見て、完全に楽しんでいる。
しかしその三分後、オレとコンラッドはハイロン王が言い出した催しに固まることになったのだった。
「後宮には素晴らしい女性達がいる。今日は剣舞。女性たちの美しい闘いを見てもらいたい」
そこにいたのは、少し青ざめて見えるリアンと表情の乏しい女性だった。二人は細い短剣を渡される。
リアンは剣技、できたか?多少嗜み程度に私塾でしていたが、そんな剣舞を行うような技なんて持ち合わせてないはずだ。
どういうつもりだ?
ハイロン王は口の端に残忍な笑みを浮かべた。
「ハイロン王の国では女性たちが、剣舞を舞うのが楽しいのでしょうが、僕は蝶のような舞や歌を聞くほうが気分が良いですが……」
ふわっとした優しい笑みをコンラッドは浮かべて、この場を和ませ、止めさせようとする。
「女性同士が剣を奮い、戦う。こんな興奮するような場を今まで味わったことがないなら、なおさら良い。あっちの第三夫人は剣舞において右に出るものはいない。まぁ、的になる女には悪いがな」
リアンのことを的だと!?頭から、いろいろな思考が吹っ飛びかける。
「怖がる女性を見るのは好きではありませんね」
コンラッドのどこまでも優しく甘い言葉にハイロン王は目を細めて笑う。
「大国ユクドールの王はなんとお優しいのか。しかし新しいものを見て見聞を深めるのも良い」
コンラッドは何を言っても無駄だなと判断したらしく、どうします?とばかりに嘆息をし、オレとリアンにチラッと視線を送った。
リアンは何か策があるのか?読み取れない……オレとコンラッドとは関わりがない顔をしている。
「さあ!見せてやれ。お前たちの美しい剣の舞を!」
ハイロン王の声が響いた。
ひたすらオレはリアンの今、オレにとってほしいであろう行動の答えを頭の中で計算していた。
流れに任せろと師匠の手紙に書いてあったことを思い出す。流れ……今の流れってどんな流れなんだ!?
リアンはキュッと短剣を胸の前で構えている。一瞬だけ……フッと一瞬、オレのほうに視線を送った。
それでオレは確信する。
銀色の短剣が閃いた。互いに一歩踏み出したその時、リアン!とオレは叫んでいた。
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