王は戯れを好む
次の日のとことだった。突然、余興をしてほしいとハリムが後宮に来て、言い出した。
「余興ですか?」
後宮の女性達が集められた中で、代表的存在の第一夫人が尋ねた。ハリムはそうだと笑顔なのに、凄みのある残酷そうな表情を浮かべていた。嫌な予感しかしなかった。
「我が女性達は賢さや美しさのみならず、武にも秀でている。剣や弓の舞を客人に見せてくれないか?」
「ハリム様!それはわたくしたちに客人の前で戦えと言うことですの!?」
「そうだ。刺激的な催しだろう?」
第五夫人の驚きと恐怖の入り混じった声音が響くが、それに対して落ち着いたハリムの態度だった。私はこの国の文化がよくわからないため、隣にいた女性にひそひそと小さい声で尋ねる。
「女性が武を披露することってあるの?武が得意でない人はどうするの?」
「弓矢を射る大会や剣舞などの大会などは時々あるけれど、今、ハリム様がおっしゃってるのは女性同士で戦えということなのよ。いつもと少し雰囲気が違うみたい。それに少し怒っている気がするわ」
怒っている?何に?私はハリムの方へ目を向けると、ピタっと目があってしまった。マズイ……。
「ほぅ。そうだな。リアン、盤上の戦いだけが強くとも、実践ではたいしたことが無さそうだ。だが、見てみたい。参加しろ」
「私が!?」
「自信がないのか?」
フフンと小憎らし気に笑ってみせるハリム。
「私は剣や弓矢などは専門外なの。自信があるなしではなくて、そういった女性を戦わせるのは単なる見世物じゃないの?いったいどうしてこんなことを始めるの?」
大勢の女性たちが私とハリムのやりとりを見守る。まさか贈り物をさせたことを根に持ってる?
「後宮は俺の物がどう使おうが勝手だろう?おまえも俺の物の一つだ。問う権利はない。……第三夫人とリアンがまず客人の前で舞ってもらおう。美しい剣舞を期待するぞ」
ヒヤリとした声音だった。何に怒ってるのか私は、探りたいが、探れない距離感を感じる。
第三夫人はかしこまりましたと即答した。その顔は無表情で読めない。ざわざわと周囲がざわめきだす。
「第三夫人は武の達人。部族の中でも男に負けないほどの剣技とか……」
「剣舞も軽やかで、美しいですわよね」
「これは不利すぎますわ」
「ハリム様は新しく入った女性を寵愛してると聞いていたのに」
「これでは、いけにえのような扱いですわね。飽きてしまわれたのかしら」
「もういらないのでしょうね。いつものごとく第五夫人までは正妻で、そのほかの女性は物と同じですもの」
「あの娘、こないだ入ったばかりでしょ?かわいそうね。でも自業自得よ。調子に乗っていたんでしょ」
目をつけられて、即刻捨てられる不幸な私に対する同情や嘲りの言葉が飛び交う。
ハリムは無言でジッと私を見つめ、楽しみにしているとだけ低い声で言い、身を翻して去っていった。
「でもここをうまく乗り越えれば、第三夫人になれるかもしれませんわ」
「ある意味、ハリム様はチャンスをくれたんじゃないかしら?第三夫人がいなくなれば、あなたにさせるつもりじゃない!?」
勝てないだろうと思われる、勝負をさせてそんなこと思っているわけがない。周囲の言葉は私の耳から遮断される。
どういうつもりなの?ユクドールの王の前で後宮の女性たちの戦いを見せるのが、そんな楽しいことかしら?ハリムの思惑が読めない。その見えない不安がシミのように広がっていく。
今回は私の策や考えが通用しない相手なのか、それとも……。
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