砂漠の星
後宮で踊りの舞が自慢の第二夫人が、ハリムに呼ばれたらしい。私には関係ないわねと昼寝をしていた。……が、アイシャが興奮気味に帰ってきた。
「もっのすごいカッコいい王様が来たんですよー!第二夫人がもてなすために舞うそうですよ。リアン様、寝てる場合じゃありません!」
ま、まさか……ウィル!?堂々と正面から来たわけ!?ガバッと私はソファから勢いよく起き上がった。寝ていたため、よだれをそっと拭いておく。
「ユクドール王国っていう大きい国の王様だそうですよ。きれいな髪を一つにまとめていて、来ている服も細かい刺繍がしてある立派なものですし、なにより穏やかで優しそうなんですよ!」
「あ、コンラッドの方なのね」
「知っているんですか!?」
「えーと……そ、そうね。見たことはあるわね」
ウィルと思ったあたり、贔屓しちゃった?でも負けないくらいウィルだって素敵なのよ……うん。
さて、とりあえず、駒を進めてきているわ。ウィルが打ち出した手を考える。コンラッドが来たということは、二人の王の存在に気付いて、利用……じゃなくて、帰るついでにハイロン王国を通過してもらえることになったようね。
どう接触するか考えをまとめたいと思っているのに、驚いたことが起こった。
「リアン様、ハリム様が大事な客人が来ているので、もてなすために来るようにとのことです」
アイシャと私は顔を見合わせる。
「リアン様はなにか特技をお持ちなんですか?」
「歌も踊りも人並み……以下かも」
えええ!?とアイシャが不安げになった。
「以前、舞が下手だという理由で後宮を追い出された女性もいましたよ……」
追い出されるなら、むしろいろんなことが省かれて良いかもしれない。下手すぎるほどに下手にしてやろうと私は思いつつ、呼ばれた広間へ行った。
ハリムが上座に座り、横にいるコンラッドと談笑していた。眼の前には砂漠では手に入りにくいみずみずしい果実が盛られている。金色のワイングラスを掲げてハリムは言った。
「リアン、客人に酒を注げ。わざわざユクドール王が来てくださったらしい。この女性はどうだ?白い肌にこのキレイな宝石のような目の色」
コンラッドが笑いだしたいのを我慢しているのがわかる。フルフルと肩を震わせている。
「えっ……いや、似合わな……じゃなくて、確かに美しい女性がハイロン王国には多いですね。酒がさらに美味しくなりそうです」
私が近寄り、酒を注ごうとすると、コンラッドが小さい声でくちびるすら動かすことに気をつけて私に囁く。
「リアン様、ウィルバートが怒りそうです。気をつけてください」
………え!?と驚いたが顔をあげず、表情も変えないようにし、お酒を注いで離れるとコンラッドの隣に控えている騎士と目があった。
青い目が見開かれ、苛立ちを隠せずにいるのは……ウィル!?と思わず叫びかけて飲み込んだ。
こ、これは想定外よ!?なぜ自ら乗り込んできてるわけ!?王様が動いてどうするのよ!?そうじゃないでしょ!?言いたいことが山ほどあるのを我慢する。
酒の瓶を持つ手が震える。
「リアン、俺にも酒を忘れてないか?」
「あ……はい……」
私はハリムに酒を入れようとすると、突然、ハリムが抱き寄せた。酒が溢れる。
「ちょっと!?な、なに!?」
「ハハッ。ここへ座ってろ!美しい宝石のような女性は飾っておくだけでも良い」
私を自分の隣に置いて満足気になる。しかしコンラッドの隣から殺気を感じる。マズイわ。ここで騒ぎ起こしちゃう?
コンラッドがクスクスと笑う。場が和らぐ。コンラッドのこういう外交での外面は上手いと思う。
「ハイロン王のお気に入りの女性なんですね」
「最近のな。いつ飽きるかわからんが、飽きたら欲しいものにくれてやろう」
ガシャッと音がして、果物の皿が崩れて転がる。コンラッドがおや?と肩を竦める。
「お付きの騎士がすいません。このような会食の場は慣れておらず……」
ウィルが蹴飛ばしたようだった。コンラッドがごまかす。もうやって良いよな?と隣のウィルはコンラッドに目で合図する。……良くないと思うわよ。落ち着きなさいよ!私は大丈夫だからと私は視線をウィルに送る。
「長旅で疲れているだろう?部屋を用意させる。ゆっくり過ごしてくれ」
「ありがとうございます」
コンラッドに半ば無理やり連れられて行く、ウィル。二人がいなくなると、ハリムが愉快そうにいった。
「やはりおまえのような外見の女性が他国の者は気にいるんだな。見たか?ユクドール王の隣の騎士など目がはなせないというくらい、気に入っていたぞ。リアンは見た目だけはいいからな」
「最後の一言が気になるけど……まぁ、いいわ。お役に立てたようなので私はこれで……」
「待て。俺は嫉妬がひどい。俺以外の男と接触したらどうなるかわかってるか?気をつけると良い」
私はバサリと頭の布をとる。それを放り投げる。
「空の星の美しさに見惚れることに誰の許可もいりませんわ」
「ハハッ!違いない。砂漠の星のようにおまえは強い光を放っているな。普通の女なら、脅せば俺を恐れるのに、なぜおまえは恐れない?」
私は無言になった。
私だって怖い気持ちはある。だけど今、この瞬間、ウィルの顔を見た瞬間、なにもかも平気になった。やはり迎えに来てくれたことが嬉しい。普通の女の子のようだと自分のことが少し恥ずかしくなるけれど。
私はハリムの問いには答えない。ニッと自信に溢れた笑みを零して、自室へ帰っていく。ハリムは呼び止めなかった。
今すぐ、ウィルの胸に飛び込みたかったのは、今はまだ内緒にしておくわと後宮の窓から外の星を眺めた。同じ星を眺めているのに、ウィルが近くにいると思うだけで、いつも以上に輝いて見えたのだった。
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