第一夫人の忠告
「大変です!リアン様!ゴロゴロ寝てる場合ですか!?第一夫人が訪ねてきましたよ!」
昨夜のことで、なんだか気疲れしたため部屋でゴロゴロしていた私はえっ?と頭をあげた。怠惰に過ごすのが一番。口も手も出すものではないわねと思っていた矢先だった。
「昨日の夜の騒ぎが後宮内で噂になっておりまして……きっと一緒にいたリアン様に状況をお聞きしたいのですよ。怪しい人が入り込み、けっきょく逃げられたということでしょう?いまだに潜んでいるかもしれませんよね。怖いですよね」
アイシャがヒソヒソと耳元で教えてくれる。ついでにテキパキと私の寝ていてグシャッとなった髪のセットを手早く直す。
ふわりと異国のお香の香りとシャランと金の腕輪がぶつかる音がし、ドアが開かれた。どこかキリッとした強いまなざしを持つ女性で、両脇には侍女を何名も連れてきていた。
アイシャが用意するクッションを目でいらないと合図すると、連れてきた侍女たちが専用の椅子やクッションを置き、大きな扇で仰いで風を送る。こちらの国の怠惰はずいぶんと贅沢な怠惰な過ごし方なのねと妙なことを思ってしまった。
「あなたが新しく入ってきた人なのですわね?」
落ち着いた美しいソプラノの声が響いた。
「そうです。リアンと申します」
「ハリム様が好みそうな容姿ですわ。白い肌に金の髪に鮮やかな目の色。どうせまたすぐ飽きてしまうでしょうけれど。女性というよりも物としか認識されない方ですから」
「物としてですか……第五夫人までの女性しか、寵愛はしないという話でしたが?」
「その通りですわ。でも寵愛はしなくても、お遊びはしますの。前回の娘の最後はどうなりました?」
表情の無い侍女が問われて、目を伏せながら答える。
「夜、ハリム様を待たずに寝てしまったらしく、三日間眠ることを許されず、牢屋に入れられ、その後は奴隷の身に落ちてしまいました」
そうでしたわねぇと笑いながら頷く第一夫人。
「あなたもそうならないように気を付けたほうがよろしいわ。ハリム様に近づくと、ひどい目にあいますわよ」
「そのようですね。気を付けます」
「まぁ、随分と素直な方ですわね。己の分をわきまえる方は好きですわ」
……私から近づいた覚えはまったくない。あっちからやって来るのよと言いたい。
やはり残酷で無邪気な面のある王であることは間違いないようだった。
「昨夜、ハリム様が忍びこんだ『キツネ』を見られたのですわよね?偶然あなたがいたようですが、それは偶然ですの?まさかあなたが招いた者ではありませんわよね?」
「そんなことできるわけありません」
私はすぐに否定したが、美しい第一夫人は無言でこちらを見つめてくる。
疑われているの!?しかし思い当たるふしが無いといったらウソになる。エイルシア王家の方かお父様の世界商人の方か?どちらかかもしれない。そう思ったが、口にも表情にも出さないように気をつける。
「あの……ハリム様は罪に厳しい方なのですね」
「まだ優しいと思いますよ。先代の王は自分の寵愛する妃と兵の目が合ったというだけで、幼いハリム様がいたにも関わらず、目の前で、その男を切り裂いたらしいですからね」
「短気すぎるわ……」
ボソッとつぶやいた私の言葉を無視して、第一夫人は立ち上がる。
「怠惰にお過ごしのようで、余計なことはしていないようですけれど、さっさと後宮から出ていかなければ、もしかして、あなたも罪を犯すことになるかもしれませんわ」
フッと意味ありげに笑い、去っていく。出ていかなければ、むしろ罪を作られそうな勢いである。第一夫人の忠告は宣戦布告に感じられた。私とアイシャがいる部屋の中には異国の香が残り、漂ったのだった。
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