闇から抜け出す時

 奴隷商とベラドナの関わりがあることを掴めた。多少時間はかかったが、連れてきた奴から聞き出すことができた。


 ベラドナはいったい、いつから孤児院の子どもたちを売りさばいていたんだろうか?今回のことは氷山の一角に過ぎないと思う。


 恐ろしい善人の顔をした悪人はオレだけでなく、信頼していた子どもたちまで、犠牲にしてきた。


 優しさで、その本性を隠し、なんて酷なことをしてきたのか。売られた子どもたちの行方を探して、エイルシアに戻せると良いのだが……。


 とりあえず、今は善人ヅラしている顔を剥がしてやろう。


 玉座に座り、威圧感を与えているが、目の前には、いつも通りの品の良くすましたベラドナがいた。


「城に呼ばれた意味をわかっているよな?」


「さっぱり検討もつきませんよ。祖母がわざわざ訪ねてきたのに、椅子から立ち上がりもせず、足を組んで、お行儀の悪いことですこと」


 ベラドナはチェックメイト寸線だと思うのに、平然とした態度をとっている。


「リアンの行き先を知っているんだろう?おまえが懇意にしている奴隷商は捕まえて吐かせた」


「……喋ってしまったの?根性のない者ですね」


「同じことをベラドナお祖母様にしてもいいんだが?それで耐えれるならば耐えてみせたらどうだ?」


 冷たい声音でオレは言い放つ。


「まさか実の優しい祖母をそんな目に合わせないでしょう?」


「オレが助けたいと思うほど、優しいお祖母様はいただろうか?だいぶ前から、そのような者はオレの周りには、いなかった気がするけどな。ベラドナ、すべてを話せ」


「冷たい孫ですこと。話しても良いのですよ。全てはエイルシア王家のためにしていること。ウィルバート、あなたのためでもあるのですよ。わたくしの願いは一つだけです。王妃を複数娶りなさいな。未だ子にも恵まれず、戦や内政に口を出して余計なことばかりし、商人風情の血が流れる娘など、この王家に不必要なのですよ」


「断る。王妃については口出しするな」

 

「では後継者をどうするつもりなのです!?王妃たる最低限の義務を果たしてないんですよ」


「それはオレとリアンの問題だ!」


「まあ、王家には、あなた方よりも濃い血を持つ者がいますから、いつか王座を奪われるときがくるかもしれませんね。それでも良いならば引きずり降ろされなさい。不幸になるのはウィルバート、あなたなんですよ」


 まるでオレとリアンを呪うように指をさして厳しい顔つきをした。いつか王座を狙う者……。確かにオレよりもエイルシア王家の血が濃いものはいるだろう。オレの母親は平民だしな。


 だが……。


「国を治めるのは血ではない」


「では、なんなのです?それは王家のことを否定する考えですよ」


「リアンを見てると、そう思える。国のためにより良くしたいと働き、百年後もこの国が良くあればいいと考えている。そのために沢山の力と知恵をくれている。王家の力だけではなく、ここに住む人々の力で国は動くんだと教えてくれた」


 オレの言葉を聞いて睨みつけるベラドナ。


「エイルシア王家が国を支えているわけじゃない。皆がエイルシア王家を支えてくれているんだ」


「何を言うんです!王家の誇りはないの!?」


「オレはリアンに会って思ったんだ。リアンの笑い声がずっと耐えない国にしたいと。リアンに会う前はただ死ぬのが怖くて、どこぞの誰かに殺されないように、王になって確固たる地位が必要だった。だけど彼女に会って思えた。この国をいつか彼女に認めてもらえるような良い国にしたいって……王は国民の幸せを願う者であって、一人の女性の幸せだけを考えていてはいけないんだろうなと思う。だけどそのぶんをリアンが補ってくれている」


 オレの視野はそんなに広くない。だけどオレが選んだ天才的な才能を持つ王妃は世界を見渡している。その光輝くエメラルド色の目で。


 リアンに会いたい。今すぐ会いたい。


「ベラドナ、オレは待てない。悪いが……」


「ウィルバート!!目を覚ましなさい!!」


 立ち上がり、腰の剣を抜こうと手をかける。目の前のベラドナは自らの手を汚さず、オレの母やオレを追い詰めていった。今はリアンまでも……ベラドナに容赦などいらないだろう。


「王妃を助けたくはないの!?」


「別におまえに聞かずとも、探し当てることはできるさ」


 世界商人達がリアンの行き先を追っているし、なによりリアンの行き先は彼女自身が示してくれるだろう。だが、一分一秒だって早く知りたいのは間違いない。


 銀色の刃をオレは鞘から抜いた。


「身内を手にかけることなら、お手の物ですわね。あなたのことを可愛がっていた公爵まで手にかけているのだから……」


「もう黙れ。オレはおまえの作った闇から抜け出す時が来たんだ」 

 

 母もオレもリアンも自分の息子であるオレの父もエキドナ公爵も全てを自分の手の内にのせて、闇の中で踊らせている。そろそろ終わりにしよう。……やっと断ち切る時が来た。


 オレは一歩踏み出し銀色の刃を向ける。ベラドナが、さすがに顔色を変えて青ざめた瞬間だった。


 クラーク男爵が来てますとセオドアが入ってきたのだった。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る