奴隷として売られる時
気づくと、カビ臭い部屋に寝かされていた。放置されていたというのが正しいかもしれない。
「ここは……」
「あんた、呑気な人だね。やっと目がさめたのかい?」
私より少し年上の女性が声をかけてきた。シワだらけの服に汚れた手足をしていた。
「身なりが良いようだが、どこかのお嬢様かい?」
私は質問には答えず、起き上がる。乱れた髪を直す。
「……ここは?」
ドアの向こうは話し声がした。
「奴隷を売る市場だよ」
アレクが子供だと思って油断したわ。やはりベラドナは奴隷商と繋がっていたのね。孤児院の子どもたちは、時々消えていた。誰かに引き取られた記録はない。人数が合わないのだ。
それをアリシアが『助けて』と私に伝えに来たことで確信に変わった。明かりが漏れている隣の部屋から値段をつける声が聞こえてくる。話し声が止まった。薄暗い室内にサッと明かりが差し込む。私を見て、起きたのかと男がこっちへ来いと招く。
「おまえはエイルシアから来た者だろう?その白い肌と金の髪は主の好みだ。特別な場所へ連れていく。すでに売約済みだ」
「売約済み?主とは誰なの?」
私が問い返すが、無視される。この奴隷市場を仕切る主?私を連れて行こうとする男には誰もが関わりたくないと言わんばかりに、素通りしていく。頭に巻いたターバン、立派な布地の青い服、靴は新品。
なるほどと私は独りごちる。この男の身なりからして地位のある主だろう。事前に調べていたことが一致する。連れて行かれる先は予想できた。外へ出ると幕のある荷馬車へと放り込まれる。周囲を見せないつもりらしい。幕の布地を閉める前に男が私を見て、不審な顔をした。
「なんだ?暴れたり抵抗したりすると思ったが、やけに大人しい女だな。泣きもしないのか?」
「そうして欲しいの?」
「……いや、そういうわけじゃないが、落ち着いていて不気味だ」
「そう思うなら買わない方が良いと思うわよ。捨てていくことをお勧めするわ」
何を言ってる!と青い服の男はバサッと布を降ろした。真っ暗になる。しばらくして馬車の外で『いつもの金だ』『あのお方によろしくお伝えください。商品に間違いはないと思います』『間違いがあれば、おまえの首が飛ぶぞ』などと不穏な声が聞こえてくる。
ガタンとひと揺れして、動き出す。
ここはエイルシア王国ではないことを肌で感じる。気温が熱い。喉が渇き、汗が出てくる。布をまくってみたかったが、頑丈に縛ってあるのか、まくれなかった。ずいぶんと警戒してるわね。
そんなに私は意識を失ってはいないと思う。それにこの気候。奴隷が認められている国。そしてあの男の服装。自分のいる国、位置をわずかな情報から掴もうとする。
そしてそれから、たいして時間がたたないうちに私は砂漠の広がる大きな宮殿に入れられていたのだった。
「主の後宮へようこそ。100番目の記念すべき花嫁だ」
青い服を着た男がそう言った。
「はなよめ!?こ、こうきゅうーーーー!?」
私はどうやら他国の後宮へと入れられてしまったようだった。確かに地位が高い人だろうと思っていたが、まさかの王家!?しかも奴隷だからメイドや使用人の予想をしていた。
ウィル……思った以上に相手は大きかったようだわ。
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