怠惰な神は降臨する

 私は怠惰の神として、やるべきことがあった。


「お茶、まだかしら?」


 はい!ただいまお持ちします!そう言って、お世話役の人が走っていく。


「フカフカのクッションがほしいの。綿ではなく羽根をいれてよ。羽根の比率を書いておいたから、それで頼むわ」


「えっ!?羽根の比率!?」


「そうよ。計算して羽根を入れてるのよ。私のお気に入りのフワフワ具合の完璧なクッションがほしいの。昼寝には絶対いるわ。羽根の種類も指定してあるからよろしくね」


 一生懸命探してきます!ともう一人いなくなる。お茶を持ってきてくれた人にありがとうと礼を言い、一口飲んだ私は顔をしかめた。


「お茶にお砂糖はいらないのよ。そのかわり、ソーサーの横にちょこんと甘いお菓子をのせてきて。カーリー菓子店の焼き菓子が食べたいわ。焼き上がる時間を見て買ってきてちょうだい」


「はっ、はいー!」


 出ていこうとした人物とすれ違いに、本を沢山抱えた人が入ってくる。


「お探しの本はこれでしょうか!?」 


 ドサッと置かれた。私は一冊ずつ確認した。相当重たかったらしく、ハアハア言っている。


「これくらいで息があがるなんて、だらしないわね。怠惰の神についてこれる者はいないわけ?」


「たっ、怠惰の神!?すいません」


 謝る白装束の一人。私は一冊の本を確認した時、思わず手が止まる。


「あら?……へぇ……あなた、何者?」


「え?……と、言われますと?」


 私は一冊の本を手に取る。


「この本はね、とても希少なのよ。一般の人が手に入れるのは無理。さっきから出入りしている者たちはお茶もクッションもそこらで売ってるものを持ってきてる。あなただけ手に入れにくいものを持ってきた。その意味、おわかり?」


 白い覆面から出ている目が丸くなった。驚いているのがわかる。そして目を細めて嬉しそうになる。


「さすがはあの人の娘だ。ただワガママを言って、こき使っているのかと思っていましたが、試されていたのですね……ご明察です。リアンお嬢様」


「お父様の関係者?」


「そうです」

  

 スッと白装束の間から腕にはまっている銀の銀環を見せた。それは溶接してあり、ちょっとやそっとではとれないようになっている。


「なるほど。わかったわ」 


 頷く白装束。身元がわかった。銀環を隠す。


「思った以上にこの団体は危険かもしれません。リアンお嬢様は大人しくされていてください」


「あなた方が、そう判断するってことは相当ね」

 

「そうです。資金がやけに潤沢だと思っていたら裏に……」


 パタパタと廊下から足音が聞こえてきた。会話を止めて、部屋から出て、去っていく。


 銀環を身につける者。それは世界商人の証。お父様はやはりその関係者だったのね。その力を使わせてもらうわよとは思っていたけれど、さすがだわ。私が考える以上にすばやく敵地に入り込ませていた。


 侮り難し……我が父。


 私を助けにくるかどうか、実の父と言えどわからなかったけれど、力になってくれることがわかった。それだけでも大きい収穫だった。


 すでに私の居場所を突き止めただろうから、助けに来てくれそうね。ウィルに接触はしただろうか?とにかく思った以上に順調だわ。


 流れが上手くいってることに満足し、怠惰の神として、ベッドに寝転び、希少な本を読みつつ、ゴロゴロすることにしたのだった。

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