私らしい慈善事業とは?

 ベラドナ様からの奉仕活動は孤児院への訪問の誘いだった。


「お誘い頂いて嬉しいです」


 私が馬車から降りると顔をしかめられる。え!?もう!?私、ダメ出しされてるの!?

 

「派手な登場に派手な身なりですこと」


 そう言われて、自分の姿を見る。馬車は王家のものでピカピカに塗られた馬車は大きくて紋章がついている。今日の服装はそんなに派手ではなく、深緑の服に薄手のフワッとしたコート、手袋にバック、胸元にブローチをしているけれど……。 


 でも確かにベラドナ様の格好は質素でブローチも手袋もしていない。紺色の服にレースが少し施されている程度だ。最高級の生地を使っているようだけど。


「まぁ、王妃様はこういうことに疎いからしかたありませんね。まったく王族の義務をわかってないのだから……」


 嫌味に言い返したいが、言葉がみつからない。完全に相手のペースだった。護衛についてきたセオドアが眉をひそめる。


 ベラドナ様が歩きだし、私もついていく。


「ようこそお越しくださいました!いつもいつも感謝しております。今回は王妃様もご一緒ということで、本当に夢のようなことです」


 孤児院の院長先生らしき人が挨拶してくる。ベラドナ様と同じくらいの年齢だ。


「こちらこそ訪問させてもらい、ありがとうございます」


「可愛い子どもたちに、良いものを持ってきましたよ」


 ニッコリ私が柔らかく微笑みを浮かべて挨拶するとそれを遮るように前へ出てくるベラドナ様。


「まあ!また子どもたちも喜びます!」


 ベラドナ様からの贈り物がずらりと並べ、用意されていた。


「ごめんなさい。私は何も用意していなかったわ」


 私がそう言うと、孤児院の院長先生はとんでもありません!と慌てる。 


「こうして、王妃様が民に目を向けてくれることが一番嬉しいのです」


 優しくそう言ってくれたが、ベラドナ様がまた遮るように前へ出てきた。


「常に王族は奉仕の心を持ち、民の幸せを願ってるものです」


 朗々と語りだす。院長先生は拍手する。その演説は話半分に聞いて、私は孤児院の中をウロウロしだした。護衛のセオドアは影のように少し離れて歩き、視察の邪魔にならないようにしている。


 中庭の砂場で固まってる子が顔あげ、目が合う。


「おねーさん、どこからきたの?」


「あっちよ」


 王城の方を指差す。ふーんと興味なさ気な子どもたち。

 

「あーあー、退屈だよ。今日は偉い人が来るから大人しくしてるように言われてんだ」


「なーんにもすることないもんね」


 私はそう……と返事をし、そのへんに落ちてる棒を一本拾った。


「あなたの名前は?」

  

 可愛らしい女の子がアリシア!と言う。私はしゃがんで砂にアリシアという文字を書いた。


「これがあなたの名前のスペルよ」


「文字?これがあたしの名前?」


「そうよ。かわいい形の文字でしょう」


 うん!と目をキラキラ輝かせる。他の子も僕も、私も!と寄ってきて、書いてもらうと皆が嬉しそうに自分の名前のスペルを見る。


 そうね。私も嬉しかった。こうやって自分の名を知ること。新しく学んでいくこと。


 慈善事業か……私は私のやり方があるわね。いろんな形があっても良いのかもしれないわ。


 立ち上がって、子どもたちに告げる。


「きっと誰もが学べる場所を作るわ。待ってて」


 キョトンとする子どもたち。その表情に思わず微笑んだ。


 ベラドナ様のもとへ戻ると、院長先生にまだ熱く語っていた。


「あら?王妃様はもう飽きたのかしら?」


「いいえ。自分の役目を思い出しただけです」


 そう言う私にベラドナ様は少し意地悪い顔をした。


「もう来たくないでしょう?」


「そんなことありません。また来ますし、きっと私にも役立てることあります」


「……それはどういう?」


「そのうちわかります」


 今日のところは帰りますと私は挨拶した。未来につながる慈善事業をしてみるわ。それが私らしい気がする。私は私のやり方があるわ。


 帰るとアナベルが言った。『なんたかスッキリした顔をしてますね』と。

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