警戒すべき者

「今日はチャリティーイベント行ってたんだって?楽しかったかい?」

 

 ウィルが机に置かれた物を触ってみて尋ねる。もらった花束、クッキー、手製のレースのハンカチなどが並べられている。


「ええ、楽しかったわよ」


 私の返事にハハッと笑うウィル。


「嘘だね。リアンはああいう催し物は好きじゃないだろ。昔、町のチャリティーイベントに参加した時のやる気の無い踊りを見た時、オレはもう吹き出したね!」


 ガタッと私はソファーからずり落ちた。


「見てたの!?」

  

「私塾の皆が祭りみたいものだから、遊びに行こうと誘ってくれたんだ」


「なんで今、暴露するのよ!?」


「あの時、言ったら、リアンは怒っただろ!?」


 ………間違い無い。町の女の子達が集まって踊りや歌をチャリティーイベントで披露しましょう!となったのだけど、私は人前でみんなと一緒にするのが、どうしても恥ずかしく感じてしまい、断った。それなのに母が、参加すると勝手に返事をしたのだ。


「踊り、苦手なのよ」


「けっこう上手かったよ」


「お世辞は良いわっ!」 


 赤くなった顔をクッションで隠す。ヒョイッとウィルがクッションを奪ってニヤリとした。


「苦手なのに、王妃の役目、ちゃんとしてくれていてありがとう。出来過ぎなくらいだよ」


 なぜ彼は私が一番欲しいと思う言葉をくれるのだろう?別にベラドナ様から言われたことなんてどうでもいいのに、見抜かれてる気がした。


「ウィル、私の顔に何か書いてある?」


「書いてないよ?心からそう思った」

  

 他の国の王に渡すか!とブツブツなにか意味不明なことを呟いてるが、気の所為だろう。


「チャリティーイベントでベラドナ様に出会ったわ」


「お祖母様は慈善事業が大好きだからね。表の顔は善人。裏では何を考えてるやら……なにか言われなかったか?」


「調子にのらないように釘を刺されただけよ」


「……気をつけろ。王都に近づけさせないようにはしてるが、エキドナ公爵を長年操っていたのはお祖母様だ。まだなにか諦めてないようなら、しかけてくるかもしれない」


「ええ……もちろん、気をつけるわ」


 ウィルの険しい顔を見ると、師匠からの手紙のことは言い出しにくくなってしまった。あまり心配させると、外出させてもらえなくなるかもしれない。

 

 ここはそっとしておこう……そう決めたのだった。

 

 机の上の物をウィルは手にとって、眺めている。その横顔を私はじっと見た。何事もなく終えることができればいいのだけど。

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