魔女の王妃

「お嬢様、本日の品々でございます」


 クラーク家の商人が物をずらりと並べた。私はドレスや宝石、靴、鞄に興味がある振りをする。


「そうね……どれにしようかしら?迷うわね」


 商人がこれなどいかかですか?とネックレスを見せてくれる。


「希少価値のある石を削り、女性のための繊細なデザインになってます」


 私に近づいてきた商人が声を低くし、小さい声になる。


「リアンお嬢様、巷で妙な信仰が流行ってます。『国を救った魔女の王妃』そうお嬢様は呼ばれて、崇拝している集団がいます」


 私は表情には出さずに、ネックレスの良さを褒める。


「まあ!きれいな石ね。……それで他にもおすすめはある?」


「もちろんです!揃いの指輪もございます!」


 ニコニコと愛想の良い笑いを商人が振りまいた。しかし私の傍に来ると声のトーンを落として静かに告げる。


「旦那さまより噂を流してる者を探ってみる。しばらく用心せよとの言伝です」


 お父様から!?それは珍しい……。


「お買い上げありがとうございます!またお嬢様に似合いのものを探して持ってまいります」


「いつも良い品をありがとう」


 ニッコリ私も笑って返す。


 クラーク家の商人が帰ってから、私は顎に手をやって考える。


 私を国を救った魔女と持ち上げている?魔法を大々的に使ったことはあまりない。……ということは、奇策を用いたことを魔法と置き換えて噂を流してるに違いない。


 私が戦略を立てたことを知っているのは王家に近い者、または王城で働く者だろう。その関係者が噂を流している。その利点は?


 わからない……どうしたいのだろう?


「お嬢様、そのネックレス素敵だと思いますけども、買って後悔してるのですか?」


「えっ?いいえ……気に入ったわよ?」


 アナベルは首を傾げる。


「先ほどから難しい顔をしておいでなので、買い物の後悔かと思いました」


「そういうわけじゃないのよ」


 確かにそう見えてもおかしくない。アナベルがそれなら良かったですと笑う。


「アナベル、温かいお茶を淹れてくれる?」


「かしこまりました」


 ちょっと甘めのお茶にし、ホッとしたい。一息ついて頭をクリアにしよう。


 私の周りになにかを仕掛けようとしているのは間違いない。クラーク家のお父様もそれに気づいている。


 師匠とお父様、両方からの忠告。これは私に不安を与えた。2人からなんて今までなかったことだ。


 魔女の王妃……それは良い意味か悪い意味か。噂を聞いた皆はどう捉えるだろう?

 


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