慈善事業はなんのため
王族、貴族の務めには慈善事業というものがある。特に女性達が主に行っている。
年に一度の大規模な慈善事業の活動の報告と共に開催される街のチャリティーイベント。
「華やかですねぇ」
アナベルが周囲に広がる露店に、お祭りのようです!と目を丸くし驚いている。私は招待客の席に座り、催される踊りや歌などを見る。
皆が一生懸命している姿に退屈だわとは言えず、私はニコニコと笑いつつ、パチパチ拍手する。
「えー、この度はチャリティーイベントに参加して頂き、ありがとうございます!責任者のワグナーと申します」
恰幅の良いおじさんがやってきて、挨拶する。
「素晴らしいイベントですわ。孤児や貧しい方々の助けとなるように催されているとお聞きしました。私からも支援させて頂きます」
「ありがとうございます!王妃様からのそのお言葉!とても心強いです!」
アナベルが私の言葉を後ろで聞いていて、王妃様らしくなりましたねぇと目尻に涙を浮かべて、そっと拭うしぐさをする。涙がでるくらいなの!?そんなに……!?
「そうそう。王家から長年、このイベントにはベラドナ様からも支援して頂いておりまして」
そうワグナーさんが言った時だった。後ろからシルバーブロンドの老婦人が顔を出した。
「お久しぶりね」
優雅に会釈し、笑顔とは裏腹の刺すような冷たさのある声音にゾッとする。私はぱらりと扇を開く。
「お久しぶりです。お元気にされてましたか?」
「元気とまではさすがにいきません。あなたから頂いたものが大きすぎて」
……エキドナ公爵のことを指しているのだろう。
「そうですか。早く傷が癒えることを祈ってますわ」
キッと強い視線になる。私はそれを扇の影で受け流す。
「ええっと……お二方、どうかごゆっくりとイベントを楽しまれてください」
不穏な空気を感じ取ったワグナーさんは逃げていく。私とアナベル、ベラドナ様のみになる。
「調子にのっているのも大概になさい。あなたは所詮、ウィルバードの寵愛がなければなにもできないのですからね。あなたの力ではないのですよ。また先日、シザリア王国とのいざこざに余計な口を出したという噂ではありませんか」
「余計な……まあ、陛下だけでも対処はできたとは思いますけども……」
「政治に口を挟むなど前代未聞です。後宮の女性として、陛下の心を慰める者として、どうあるべきか考えなさい」
私はパチッと扇を閉じた。
「私は私なりのやり方で、ウィルバードやこの国を守ることができるなら、どんな手でも使います。後宮の王妃の役割とはなんなのか?今まで通りでなくても良いのではありませんか?」
「奢りですね。そのうち、痛い目を見るでしょうよ。これは忠告です。前へ出ず、控えていることを勧めますよ」
「ご忠告ありがとうございます。心配には及びませんわ」
プイッとベラドナ様はひと睨みしてから踵を返して行ってしまう。
「な、なんだか、すごいですね」
やりとりを見ていたアナベルがドン引きしている。
「恨みを買うであろうとは思っていたけど、予想以上にベラドナ様はしつこいわね」
どう考えても玉座を奪おうとしてた卑劣な輩はそっちだし、幼かったウィルバードにひどいことをしてきたのも許せるものではないだろう。
それ相応の報いを与えられたが、真の裏で糸引いていたベラドナ様は怒りを持続させている。反逆者は、なかなかの神経の持ち主らしい。
明るい音楽が流れる広場に相応しくない、重い空気が私にのしかかったのだった。
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