月宵草の代償①

「ウィル、この研究をしてみたいんだけど、どうしても必要な薬草が無いのよね」


 嫌な予感がするなぁ。薬草の本を僕に向けながらほらほら〜と見せてくる。寝たふりしよっと……。


 机に突っ伏してうたた寝する。


「これがあると、冬に流行る風邪に効く薬が作れるらしいわ」

  

 僕は寝てるからっ。


「他の材料はあるのよね〜。これ作れたら、かなりいいお値段で売れるわよね」


 商売するのか!?僕は聞こえてない!寝てるったら寝てる!


「一緒に採りに行かない?」


 ……無視して喋るリアンがすごいよ。寝たふりを続けていると、仕方ないわと立ち上がる。


「一人で行くしかないわね」


「一人で!?」


 寝たふりしていたけれど、ガバッと起きて、一人で行きそうなリアンの服を掴んで止める。


「やっぱり起きていたわね」


「いやいやいや……あそこの森、狼とか熊とか出るだろ!?女の子が一人で行っちゃダメだ」


「大丈夫よ。魔法で撃退よ!」


 こう見えても強いのよ!と拳を上に上げてノリノリな彼女。


 ああああ……いつもこうなっちゃうんだよなぁ。森の中へ二人で入っていく。止めれなかった!今回も止めれなかった!


「薬とかにリアン、興味あったっけ?」


「うん。まぁ……ちょっとね」


 あまり興味なかった気がするんだけどな?なんで急に言い出したんだろうか?


 薄暗い森の中を二人で歩いていく。少しジメジメしていて、気味が悪い。森の中にずいぶん入ってきてしまったが、リアンは森の地図を見ながら、もう少しもう少しだけと入っていく。夢中になって探している。


 そろそろ……帰らないと夜になる。


「リアン、日が傾いてきてる」


 獣が動き出す時間になる。帰らないとマズイ。皆が心配してるかもしれない。


「ああっ!見てよ!薄く葉が輝いてる!コレよね?」

  

 珍しい月宵草を見つけ出せるなんて……なんて強運の持ち主なんだろう。でもリアンにはそういうところがある。なんかツイてるんだよなぁ。


「確かに、コレみたいだね」


「やったー!」


 嬉しそうにそっと葉を採取するリアン。そしてハッと気づく。


「大変!こんなに暗くなってる!」


「そうだねぇ〜」

 

「そうだねって、なんで言ってくれないのよー!」


「えー?リアンが楽しそうだから、ま、いっか〜ってなったよ」


 ほんとに夢中なときの彼女は可愛い。見てて飽きない。


「よくなーい!帰りましょ!急ぎましょ!」


 急に早足になるリアン。その時だった。ガサッガサッと音がした。バッ!と飛び出してきたのはグレイの毛並みのオオカミだった。


 腰の剣を素早く抜いて、リアンに爪が届く前に薙ぎ払った。剣から血が滴る。ヒュッと汚れを空中で剣を振って落として鞘にカチリとおさめる。数秒のできごとで、何事もなかったかのように静まる。


「ウィル、すごいわ。魔法を使う間もなかった!そんな剣さばき、いつ覚えたの!?」


 騎士団に鍛えられてることは言えない。ナイショだよと笑った。


 月の明かりが道を照らしている。……きっとみんな心配してるだろうなぁ。

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