月宵草の代償②
「ウィル!リアン!」
師匠は僕たちの顔を見ると駆け寄ってきた。この人が顔色を変えるなんて珍しいことだった。
僕とリアンが帰って来るのを大人たちは待っていた。たしかに……少し遅かったかもしれない。
「血!?どこか怪我をしたのか!?」
この町の町長が驚いて僕を見た。オオカミの血が少し残っていたか?
「いえ、これは僕の血ではなく、獣の血です。大丈夫です」
そう僕が答えると周囲の空気がホッとして緩む。突然、パンッと頬を師匠から殴られ、リアンが体勢を崩して倒れた。
「リアン!」
頬を抑えて、リアンは驚いたような眼差しで師匠を見返したが、すぐに目を伏せて、パタパタと地面の砂をはたいて、立ち上がる。言い返さない。なぜ怒られているのかわかってると言いたげだ。
「ウィル、大丈夫よ。……ごめんなさい。私が悪かったのはわかっているの」
師匠は今まで見たこともなかったくらい怒っていた。普段、温厚なだけに、リアンと僕も何も言えなかった。
「おまえは……このかたを誰だと……いや、なんでもない。皆が心配していた。何をしたかわかってるな?」
「はい……」
「破門になる覚悟はあるな」
「待ってください!僕が行こうって誘ったんだ!」
「ウィル!ちがっ………」
「僕のせいなんだ!」
僕は誰も言葉を発せられないくらい強くそう言った。リアンが破門になって、ここに来なくなったら、もう会えなくなる。それだけは嫌だ。
「ウィルがそんな提案するわけが……」
「いいえ、僕が薬草に興味を持ち、欲しくなったんです」
はあ……と師匠はため息を吐いて、額に手を当てた。とても心配させてしまったらしい。
「ごめんなさい……」
リアンは心から申し訳無さそうにしょんぼりして謝った。
「リアン、おまえが探究心と好奇心の塊ということは知っている。しかし無謀なことはするな。皆が心配するようなことはしてはいけない」
とても小さくなってリアンはハイと答えた。 でも僕の予想だけど、またすると思うけどね。だって、リアンだもの。
「ウィル、立場を考えろ。何かあれば、わたしだけでなく、ここの町、全員の首が飛ぶ。おまえの身の安全をわたしが保障すると陛下と約束したから、来れる。それを忘れるな」
誰にも聞こえない声で、師匠は僕の耳元でそう言った。すみませんと僕も謝った。自由にさせてくれてるのは師匠がいるからで、たしかに師匠は責任を問われてしまう。
そして後で知った。リアンの妹は体が弱くて、よく風邪をひくことを。
彼女は無事に薬を一瓶作り終え、僕にありがとうとお礼を言った。しばらくいつもの元気はなかった。どこかしょんぼりしていて、勢いがない。僕にも申し訳なく思っているようだった。
リアン、いつもの笑顔が見たいんだ。だから元気をだしてほしい。
――また僕を巻き込んでも構わないから。
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☆『ワーカーホリックのメイドと騎士は恋に落ちることが難しい!』
https://kakuyomu.jp/works/16817330667505258598
セオドアとアナベルの恋の経過とウィルとリアンの過去や普段の様子がチラリと描かれたサブストーリーもよろしければ手にとって頂けたらと思います(*^^*)
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