踊るものと踊らされるもの

「なんでまたこの格好をさせられているんだーっ!?」


 エリックが叫ぶ。化粧と踊り子の衣装がとても似合う妖艶な美女になっている。


「騎士に女装させるなんて、リアン様くらいだっ!ひどすぎる!」


「似合ってるわよ。普通の女性に頼んだら、危険でしょ?腕のたつ三騎士なら安心だし、それにエリックは運動能力も高いから踊りもお手のものよね!いつぞやの夜会ではお嬢様たちを相手に優雅に踊っていたもの!できるわ!あなたなら!」


 ガシッと両手を握ると、エリックはえっ!?と怯み、目を瞬かせる。


「あなたが……できないと言うなら、私が行くしかないわ」


「そんなことしたら、ウィルバート様に自分が怒られるんで、絶対しないでほしい……けど」


 いや~な顔をするエリック。間違いなく、私が乗り込んだら激怒するウィルの顔が浮かぶ。


「お嬢様、それだけはだめです!以前に命をかけるなら、離縁すると怒られたでしょう!?」


 アナベルは静かにしていたが、さすがに黙っていられなくなり、口を挟む。そんなことあったわね……。


「離縁……って……わかりました!わかりましたよっ!行ってきます。でも身の危険があれば、ぶち倒してでも帰って来ますからね!」


「それはもちろんよ。身の安全を最優先してちょうだい。もし危険ならぶち倒しても良いわ。これはただの時間稼ぎなの」


 踊り子に扮した美女のエリックは時間稼ぎ?と首を傾げる。


「船上パーティーをエイルシアの内海で、盛大に行わせなさい」


 ニッコリと私は微笑んだ。戦は先手必勝。今回は特に後手に回ると勝機は減る。相手はエイルシア王国を侮っているし、良いチャンス。


 いってきます……とエリックは去っていく。


「いってらっしゃい!踊りまくって飲ませまくってちょうだい!」

 

 シャランとエリックは返事の代わりに一回転ジャンプをしてみせる。優雅な着地。


 間違いなく私より優雅だわ。


「お嬢様、また奇策ですか?」


「フフフッ。楽しいパーティーの相談していただけよ」


 アナベルは悪い笑いですねと肩をすくめてみせた。


 そうよ……楽しい楽しいパーティーを楽しんでくれればいいのよ。たった一晩だけ。

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