海戦は避けられず
「結論から言うと、シザリア王国は一発かましてくるわね」
「王妃がかましてくるとか物騒なこと言うなよ」
リアンが肩をすくめる。エイルシア王国の海を記した地図を広げている。
「実はユクドール王国のコンラッドから『手を貸しましょうか?』という申し出があった」
「断ったのよね?」
「もちろん断った。ユクドール王国まで介入すると大事になる」
良かったわとニッコリとリアンが笑った。ユクドールまで巻き込むと、その同盟国も反応するだろう。さらにシザリアの同盟国も反応するとなると……小競り合いでは済まなくなる。
「シザリア王国は海戦に自信を持ってるわ。商船が通っても知らぬ顔でいて、我が物顔でエイルシアの海にいるらしいわよ」
「クラーク家からの情報か?」
「そうよ」
隠すこと無く、リアンは実家からの情報だと認める。クラーク家には海運を頼んだ。海を通っている。間違いない情報だろう。
海から来る敵か。オレは初めての海戦になる。地図を眺めて顔をしかめる。
「ウィル。大丈夫よ。そんなに難しいわけじゃないわ。条件が揃えば私達、勝てるわよ。だけど……そうね……頑張って、後もう少し時間稼ぎしてくれる。計算的には2日」
「2日でいいのか?」
「ええ。2日よ」
わかったとオレは頷いた。
「後、集めてほしいものがあるのよ」
リアンの小さなメモを口には出さずに読むとオレはすぐに暖炉に焚べて燃やしてしまう。
なるほどね。オレは作戦が見えてきた。
「敵はまさか……と思うだろうな。わかった。これでいこう」
リアンが採用してくれるのねと嬉しい顔をした。君以上にここまでの戦略を立てれるものはいないだろうと思う。だけどそれを口にすることはできない。
王妃だからだ。戦略立案は彼女の仕事でも役目でもない。
後宮に入った者は縛られる。その身分と規律に。母も姉も。
わかってはいる。彼女たちに自由がないことも王の一声で次の日からいきなり運命が変えられてしまうことも……あるだろう。
オレはいつかリアンがオレの隣にいて、自分の能力を余すこと無く発揮できるようにしてやりたい。
「余計なこと、考えないで今は目の前の問題でしょ?」
「……!?」
「ウィル、顔に出てるわよ」
「なにが!?」
心の中をさすがにリアンでも読めないよな!?
「過分な権力は身を滅ぼすわ。私はそんなこと望んではいないわよ」
よ、読めてる!?読まれてる!?
天才彼女は腰に手を当てて言い放った。
「欲しいのは権力じゃないのよ!ふふふ。やっぱり楽しいのよ。自分の知識が形となっていくのが!そのチャンスをくれることに私は感謝してるわ」
「リアン……」
何かに夢中なリアンはキラキラとしていて、美しくて惹かれる。オレにはない強さもそして真っすぐさも。
「残酷だとユクドールの王に言われたけど、私は私のやり方で国を守りたいと思ってるの。人を駒に見立てているわけでもないの。ウィルバートだけには言っておきたいの。わかってくれる?」
「大丈夫。わかってるよ。オレはリアンのことが変わらず好きだよ。ずっときっとこれからも変わらない」
リアンが目を見開き、そしてフフッと頬を少し赤らめて嬉しそうに笑った。かなり可愛くてオレも目を細めて一緒に笑ってしまった。
オレは姉のように逃げ出したくなるくらい辛い思いをリアンにさせたくない……そう思った。
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