シザリア王国の焦りは形になっていく

 姉はなぜ、あれほどまでに帰ることを拒むんだ?


 説得はしたという内容をしたためた手紙をシザリア王へ出した。使者としてトラスに行ってもらっている。

 

 そのトラスが苦い顔をして帰ってきた。


「どうした?あまり良い報せではないな?」


「はい……あちらの怒りがすごいです。王妃と王子を返せ!と、そればかり言ってます」


「いや、だから帰すと言っているんだが……そもそも王子がどこにいるのかオレは知らない」


 シザリア王国にはいないのか?姉はどこへ王子を隠した!?


「まるでエイルシア王国が奪い人質として捕えてるような言い方でしたよ」


「シザリア王国は気性が荒いし気が短いんだ。だから早く解決したいと思ってたんだ……」


 はぁ……と額に手をあてる。トラスが顎に手をやって考えている。


「そうは言っても状況はまずくないですか?シザリア王国がエイルシアの海に船を集結させつつあります。力尽くでも奪う気です」


「海戦はエイルシア王国は得意ではない。そもそも海洋国家シザリア王国と渡り合えるような船を持ってないしな」


 まずいことになってますねとトラスが言う。


「姉が王子をエイルシア王国内に隠していないか調べてくれ。王子を探せ。海の方はなんとかする。姉は即刻シザリア王国へ送りつける」


 トラスは役目を得て、去っていく。先に姉だけでも帰すべきか?自業自得だが、帰れば相当重い罰を受けるだろう。

 

 ……だからなんだ?エイルシア王国に関係ないことだ。罰でもなんでも受けろよと冷たいウィルバートの部分の自分が言う。


 だけどウィルの部分の自分が気づいてるだろ?とも言う。

  

 姉はシザリア王国内で何かがあり、我が子を守りたかったんじゃないか?オレの母のように……と。だから最悪自分の命を失う覚悟で逃げてきたのではないか?


 情を持つべきではない。エイルシア王国と秤にかけるまでもない。シザリア王国は待たない。早く決断して事をおさめなければ間に合わなくなる。海から攻められては無理だ。


 セオドアがちょっと良いでしょうか?とやってきた。


「どうした?」

 

「リアン様がお話したいそうです」


 ……天才的な彼女はたぶん、何かを描いてる。誰もがまだ見えない部分も自分のシナリオに入れている。


「わかった。行こう」


 怠惰な王妃に見せかけてるけど、そろそろ怠惰を返上したらどうだろう?と苦笑してしまうのだった。


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