隠したものの重さ

「本当は違うだろ!?原因を言わないなら、力尽くでも城から放り出す!」


 ウィルの声にビクッと怯えたようになるソフィーはそれでも口を開かない。

 

「ウィル!」


 私は止めようとした……けれどウィルは王としての顔をしていて、厳しい視線を私にも向ける。


「リアンならわかるだろ。もうある程度調べてるんじゃないか?このまま放置しておけば、なぜか焦っているシザリア王国が仕掛けてくるぞ!」


 私はうっと言葉に詰まる。確かにそうだと思う。ウィルの読みは正しいわ。私もクラーク家から、ある程度の情報をすでに得ている。


 海洋国家シザリアの動きは船をエイルシアの近海に何隻も近づけてきている。海から攻められたら海戦に慣れない私達は負けるかもしれない。これは最悪の想定だけど。


 それにしても王妃1人を取り戻すためにしてはやけに動きが大きい。なにをソフィーが隠しているのか気にはなる。


「この国をオレは守らなければならない。関係の薄い姉などと秤にかけられるものじゃないだろ」


 冷たく言い捨てるようなウィル。それが彼と姉妹たちとの関係なのだろう。


「アナベル、お茶を淹れてくれる?」

 

「お茶なんて飲む気分じゃ……」


 私はウィルにニッコリ微笑む。


「今すぐ攻めてくるわけでもないんだし、お茶1杯くらいの時間はあるわよ」


 お茶の葉が開く間だけだったが、このひとときで少し頭をお互いに冷やすことができる。


 一瞬の沈黙の後、ソフィーがやっと重い口を開いた。


「王子を隠したの」


『はっ!?』


 私とウィルの声が重なった。


「なぜそんなことを!?王子を探してるなら、そりゃ必死になる。王位継承者だろ?」


「そうよ。それも第一王子。シザリア王国で唯一の王子よ。あなたと同じね。ウィルバート?エイルシア王国唯一の王位継承者だったわよね」


「だから、なんだ!?」


 ジッとソフィーはウィルを見た。


「わたくしはあなたが幼い頃には、もう色々理解できる年齢だったわ。あなたのお母様がウィルバートに会いたいと何度もお願いしていたのを見たの。でも無下に扱われていたわ。あなたもお母様に会いに来た時は嬉しかったでしょう?」


 なんとなく私はここでソフィーの気持ちに気づき始めた。だけどウィルは冷たい声で言い放つ。


「王家のやり方に口を出せる立場ではオレも母もなかった。どんな思いがあろうとも、踏みにじられても、無理な時は無理だ。王家に生まれ育ったならわかるだろ」


「自分の思いを殺したくないのよ!あなたはあなたの好きな王妃にできるの!?」


「オレはできない。今は王だからなリアンの気持ちは守りたい。……いろんな王や国がある。仕方ないだろう。悪いけど姉であるといっても、守る義務なんてないし恩もない。大人しく国へ帰ってくれ」


 ソフィーは絶対的なウィルの拒否に無言になり、泣きたい顔をした。私は口を挟んで良いのかわからずに見守っていた。


「……わかったわ。帰るわ」


 その一言にホッとするウィル。だけど私はソフィーに問う。


「王子はどうするの?」


 目を伏せてソフィーは悲しそうに笑う。


「唯一の手札が自分の息子って悲しいわよね。リアンは良いわね。すごくウィルバートが愛してるのがわかるわ」


「もしかして、ソフィーは……」


 私が言おうとしたことを唇に指を当てて止める。


「言わないで。ありがとう。お邪魔したわね」


 ……この件はまだ片付かない。私はそう思ったのだった。

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