色別された王妃達
「どうぞリアン様、この焼き菓子はユクドールの名産の柑橘類を使用したものが入っていて、爽やかな味わいで美味しいのですわ」
ふわりとした印象を受けた黄色のドレスや宝石を身につける第2王妃がお茶とお菓子を薦めてくれる。
「ありがとうございます。いただきますわ」
私がお茶を一口飲むと、スッと立ち上がって、涼しい目元の背の高い青色のドレスを纏う女性は楽器を出して奏でだす。その音色は穏やかで優しく、そしてお茶の時間にピッタリの曲調だった。
「素敵な音色ですわね。心が安らぎます」
私が褒めるとペコリとお辞儀する。
「えーと……ドレスの色は決められていますの?どの方も美しいドレスですけれども……」
私が話を振ってみると、赤色の一番若そうな王妃がええ!わかりました!?と快活に笑った。
「王妃候補がたくさんいて、コンラッド様が名前と顔を覚えられないですねとおっしゃいましたから、わたくしたちで工夫をしてみましたの。だから色の゙名前で赤の王妃と呼んでくださって構いませんわ」
「赤の……王妃?色で見分ける!?」
コンラッド殿下の皮肉よね。それは絶対わざと言ったに違いない。名を覚えずに色でわけるなんて、彼は彼女達を愛しているのだろうか?私の中に小さな疑惑が生まれる。
「王子として婚約していたのはわたくしだけでしたが、王になると聞いた途端に、どこの貴族も娘を差し出しましたのよ」
そう困ったように笑う白の王妃。一番静かで何も話さない黒の服を着た女性は目を伏せた。黒の王妃でいいの……かしら、彼女達はやはり名を名乗らない。コンラッドがそれでいいと言ったから?
「リアン様はエイルシア王がたった一人の王妃にすると決めたと噂で聞きましたが、本当ですの?」
赤の王妃が尋ねる。
「ええ……まぁ……今のところは私だけですね」
「後宮でのおもてなしの際は一人で仕切るのは大変ではありませんの?」
「後宮で……おもてなし?」
私が聞き返すと、えっ?と驚く5人の王妃達。
「後宮の役割はこうしてお客様をおもてなししますのよ。またパーティーの際にはどんな料理にするのか、音楽の曲をするのかなどの゙案を出したりしてますわ。他にも主に女同士でのお茶会を開いたり、慈善事業のバザーや講演会へ行ったり……」
それはまったくしてない!すべてお任せしてしまっている。もしかしてそれらは私の仕事だったの!?
国政や戦をやってたけど、そこじゃなかったの!?今はダム作りに忙しいんだけど……。
私の腹心のメイドのアナベルは私の焦りを感じ、心を見抜き、そりゃそうでしょうと言いたげに私をジッと見た。スィーと私は自然に目を逸らす。
「その国のパーティーなどは季節のもの、その地域特有のもの、相手国のものなど、大変な気を配ってますの。昨日のパーティーのお食事、気づかれました?」
「あっ!そういえば、種類がとても豊富だと思いました。しかし味付けはどの国の方が食べても食べやすいようにアレンジされていた気がします」
お気づきになられて良かったですわと白の王妃は私の先生になったかのように満足気に頷いた。
そして自信と誇りに満ちた顔を王妃達が私に向ける。
「これがわたくしたちの仕事なのですわ」
「王を労るばかりではありませんの」
私を単なるお礼にどうぞと呼んだわけではなさそうだと気付いた。何故、この人達は私に後宮の決まり事を教えるような話をしたり、自らを紹介をしたりしているのか?
まるで私のことをライバルとでも言いたげに………気の所為なのかしら?なぜウィルバートの王妃である私に敵対心を向けているのか?
音楽を奏でた青の王妃は私に向かって、お弾きになる?と尋ねる。彼女より私は上手く弾ける自信がないので辞退すると、あら?そう?と笑われた。
黄色の王妃は『このお茶はどこの産地のものがご存知?』と尋ねる。私を試そうとしている。
……デジャヴ。王妃候補として集まったとき思い出すのはなぜなの!?
お礼と言われ、ノコノコやってきたけど、それは間違いだったと気付かされる私だった。すっかり5人の王妃に包囲されてしまい、背中に汗が伝うのを感じた。
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