その国にはその国のやり方がある
私は返事をしつつも、だんだん面倒臭くなってきたし、他の王妃たちがいかに自分たちの持つ技がすごいかを披露していて、それを褒めることにも飽きてきた。細かい刺繍の模様に感心するふりをしている自分がちょっと馬鹿みたいに思えてくる。
ふと、そんな中で黒の王妃だけが何も話さず静かにしていることに気付いた。
「黒の王妃様でよろしいのかしら?」
話しかけてみると、大人しそうな彼女はハッ!と私の顔を見た。
「は、はい……第五王妃の黒の……」
「色ではなく、名前でお呼びしては失礼なのかしら?教えていただけますか?」
「ベルと申します」
「まぁ!かわいらしい名前ですね。ベル様は最近、後宮に入られたのですか?」
「久しぶりに名前を呼んでいただけました。ありがとうございます。そうですわ。コンラッド様のもとへ行くようにと父から言われました。まだお名前すら呼ばれていないので、わたくしなど知らないかもしれません」
消えいるような声でそう話す。
私は腕を組む。私とウィルが特殊なのかしら?これが当たり前なの?姿も名前も知られず嫁いでくるの?
「リアン様はコンラッド様に気に入られていらっしゃるとか?」
白の王妃がそう言った。
「えっ!?気に入られてはいないと思います。チェスで勝ってしまったので、チェスのライバルくらいには思われているかもしれませんけど……」
そんなにボードゲームがお好きだったかしら?と王妃たちがひそひそ話している。
まさか戦で恨み買ってるかもしれません……なんて言えない。
「そろそろ私はお暇します。お招きしていただき、ありがとうございました」
楽しかったですと社交辞令を述べて、私は立ち去ろうとした時だった。
「もう行ってしまうんですか?」
コンラッドがいきなり現れた。戴冠式前で忙しいんじゃないの!?
コンラッドの登場に思わず5人の王妃たちがざわめいた。
「ええ。ありがとうございました」
にっこり私は作り笑いをする。本当は言いたいことはある。そのことにコンラッドは気付いたようだった。
「何か言いたいことがありそうですね?」
「私、他国の後宮を初めて訪れたのですわ。私が言うのもなんですけど、王妃様達のお名前くらいは覚えたらいかがです?」
「あ、色のことかな?便利でわかりやすいでしょう?」
私は眉をひそめた。以前から少し感じていたコンラッドに対する違和感。彼は優しい。前王よりもはるかに人を思いやる気持ちがある。しかし女性に対して低い扱いをする。ウィルに近づけさせようとしたシンシアも利用していたにすぎない。使えなくなれば、そこからいなくなるだけ。今回、シンシアの姿が王宮内にいないというのは……そういうことだろう。
「そういえば、ユクドール王国では女性が王宮で働く姿をみかけませんね」
「いるじゃないですか?メイドたちはそうですよ?下女もいますし」
「なるほど……」
やはりそうなのねと私は納得する。この国では女性は重用されない。ウィルは女性だろうがなんだろうが、能力があれば良いと言って積極的に雇っている。少ないが、女性の官吏や騎士もいるのだ。
「ではごきげんよう」
リアン様と呼び止めようとしたコンラッドの言葉を振り切って、私は歩き去る。ここは我が国ではない。だからいろんなやり方や考え方があって当然だと思う。だけど私は色の名で呼ばれたくない!なんとなく腹立たしい気持ちになってドスドスと力を込めて歩いた。
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