地位に溺れる者、王妃に溺れる者
「コンラッド、まだ内部はゴタゴタしてるんだな」
オレの言葉にバレてしまいましたかと肩を竦めるコンラッド。
「しつこい羽虫がブンブンと何匹かだけですけどね」
「苦戦しそうなのか?」
「手伝ってくれるんですか?……大丈夫です。時々命を狙われていますが、だいぶ虫を駆除できてますよ」
「それならいいが、リアンを危険に晒してしまった自分にオレは腹が立ってる。一掃するなら手を貸す」
「昨夜の首謀者なら、もう叩き潰しましたよ」
穏やかな顔をしながら怖いことを言うコンラッド。まあ……人のことは言えないだろう。王とはそんなものだ。時に残酷な部分も必要とされる時がある。オレの複雑な表情を読み取り、コンラッドは苦笑した。
「王になることを決意したんです。後悔はありません。この頭上に自ら望んで王冠を載せますよ。ウィルバート、あなたも同じでしょう。王として国を背負う覚悟を決めた日があったはずなんですから……そして僕よりずっと若かった」
戴冠式か……思い出すが、なんだか必死だった記憶しか出てこない。
「そういえば話をしたいとダレン副将軍が来てます。どうしますか?」
「話?別に構わないが?」
そうオレが返事をすると待っていたようで、ドアが開いて、頭を下げてから室内に入ってきた。確か戦の時に城に入り、石化された副将軍だったな。
「直接お会いするのは初めてですね。昨夜はコンラッド殿下をお守りくださり、感謝します。わが国の兵を鍛えなおさねば!と思いました。エイルシア王と護衛の騎士の動きに驚きました……そして女性でありながら、あの場で混乱せずエイルシアの王妃の落ち着いた姿にも驚きを感じました」
「礼には及ばない。自分の王妃を守ったにすぎない。結果的にコンラッドも守れて良かったというだけだ」
正直に言うが、一緒に踊っていたリアンを守っただけで、別にコンラッドを守ったわけではない。コンラッドならば、この国の兵たちが必死に守るが、一緒にいるリアンはどうでもいいだろう。むしろ盾にされそうだと思い、すぐに動いた。
「はっきりと物を申す王ですね。この大国ユクドールに対等な口を利くものはなかなかいないのですがね……」
「大国だろうが小国だろうが、自分に対して心を開いて真摯に話す者を大事にしていくことだ。王になると真実を見分ける力がいる。自分に対して媚びを売る者、利用しようとする者、耳障りの良いことしか言わない者が出てくる。気を付けなければすぐに飲み込まれる」
「確かにそうですね。父はもう溺れてました。昔はあんなふうではなかったのですが、王の椅子はまるで呪いのようです」
オレの言葉にダレン副将軍は黙り、コンラッドは苦笑した。そしてためらいがちにダレン副将軍は口を開く。
「……少しお聞きしたい。戦の時、あの王妃の策を利用した恐ろしさを自覚しているのでしょうか?戦略自体は素晴らしく意表を、つくものではあった。しかし机上で学んだだけの者の策をよく使われたなと思うのです。戦場では人の声や血、命を感じ、作戦が展開されていく。あの王妃はそれを知らない。命の重さを知っていて使っているのか?と問いたいのです」
やはりリアンのことを聞かれたか。気になる存在なのだろう……。
「彼女は知る必要はないし、これからも戦場のひどさを教えるつもりはない。むしろ二度と来ないでほしいよ。オレが知っていれば十分だ。策の決定権はオレにある。リアンが提案し、それを使うか使わないかはオレが判断している。責任ももちろんオレにある。……だからリアンのことをダレン副将軍、恨まないでくれ」
「恨んでなどはいません。ただ、女に戦の何がわかるのかと思うのですよ。またエイルシア王は王妃一人だけしか娶らないと聞きましたが、一人の王妃だけを寵愛しすぎると、その妃の言葉に惑わされぬかどうか心配しているだけです。女性で国を傾けた例も歴史上、ありますゆえ」
じっとオレのことをコンラッドとダレン副将軍は見た。
「そうだな。王の椅子の呪いよりもどちらかと言えば、オレは王妃に溺れないように気を付けるよ」
影のように後ろに常に控えているセオドアがフフッと小さく笑った声を俺は聞き逃さなかった。もう溺れてるとでも言いたいのかもしれなかった。
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