ユクドール王国へ

 リアン様の緑色のドレス入ってる!?靴は何足あるか確認して!晩餐会用のアクセサリーセットは?


 大騒ぎで後宮付きのメイド達がユクドール王国行きの用意をしてくれた。ここ数日、とてもバタバタしていた。


「ガルシア将軍、フルトン、トラス、宰相、留守の間頼むぞ」


 ウィルが命じ、承知いたしましたと一礼する四人。セオドアとエリックは護衛として一緒に来る。もちろんアナベルも私付きのメイドとしてついてきてくれる。


 馬車に乗り込み、出発する。何台もの馬車が列を連ねて、移動する。これが王族ってやつなのね……と私は馬車の列に圧倒される。それに気付いてニコッと笑うウィル。


「今回は戴冠式だし、お祝いの贈り物も持って行くから馬車の台数が多いんだ」


 窓の外の流れる景色を私が見ていると、ウィルがさり気なく気になったんだけど……と会話を始めた。日頃ゆっくりできないから、この移動時間はいい機会かもしれない。


「なになに?何が気になるの?」


「リアンの両親はもしかして、昔からオレの本当の身分を知っていたのかな?」


 んー………と私は考える。


「侮りがたい両親であることは間違いないわね。たしかに私はウィルのことを王と知らずにいたけど、あの二人はもしかして気づいていたかもしれないわ……お母様は娘を王家に嫁がせることが夢なのよ!とは前々から言ってたのよね」


「リアンの母はなぜそこまでして王家に入れたかったんだ?」


「さあ?なぜかしら?でも母が○○したい!と言えば、バカがつくほどの愛妻家の父は躍起になるわよ」


 過去にも数々の出来事があった。母が暑いから避暑地に行きたいわねぇと言い出して、突然その日のうちに連れて行かれたことや夜中に寂しいと言えば、家中の者を叩き起こして、いきなりパーティーを始めたり、キラキラしたものが欲しいと言えば、でかい宝石をどこからともなく一ヶ月かけて発掘してきたり………なんか愛し方違うでしょ?と思うのだった。


「愛妻家ゆえのリアンの後宮入り推しか……リアンの父の案ではなく母の方なのか?」


 ブツブツとなにやらウィルはつぶやいている。先日、父と会っていたから何か話したのだろう。有益なことを話してれば良いけど、あの父はふざけてる時がある。


「お母様のこと、私はワガママでおバカなのかと思ってたのよ……でも私が後宮へ行くのは嫌!というのを外堀から埋めていったのは母の手腕だから、なかなかの人だってわかったのよね。あの人ぜーったい猫かぶってるのよ!」


「リアンとそっくりだよ……怠惰を装っていざとなれば、策を練ってる」


 ……そ、そう言われると、似てる気がしてくるわね。私はうっと言葉に詰まった。


「ウィルはお父様とお母様、どちらに似てるの?」


「…………どっちかな?わからないな」


 言った後で言わなきゃ良かったと後悔した。ウィルはフッと笑って何も言わずに心を隠したけど、一瞬青色の目が曇ったのを私は見逃さなかった。そして彼はすぐに他愛ない別の話に切り替えた。


 ガタガタと馬車は揺れながらユクドール王国の道を往くのだった。

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