戴冠式の招待状
父の病床に呼ばれる。
「おまえに王座を譲る」
ただそれだけの言葉を暗い部屋で告げられた。
「はい」
オレもそれしか返せなかった。父とは距離があり、関係が良いも悪いも無い。
「いつまでいる?さっさと部屋から出ていけ」
「はい」
従順な人形のような子どもを演じ、言われるまま部屋から出ていく。背後で話し声がした。
「あんな自分の意思がなさそうな者に王座を譲るなど、この国の良い未来はないな」
「へ、陛下……ウィルバート殿下に聞こえます」
「構わない」
ガチャリと扉が閉まった。その扉を蹴飛ばしてやりたい衝動に駆られるがグッと堪える。体調を崩すその随分前から父は政治にも内政にも興味が失せていて、何もかも臣下に任せていた。
その結果が、悪い形になって現れてきている。早く……早く……実権を手に入れたい。
一瞬、自らの手で父を殺してしまおうか?そう昏いウィルバートが提案する。時々、狂ったような黒い部分の自分がいることを認識してしまう。
「ウィルバート?」
ハッ!と目を開けた。新緑の色をした目が顔を心配そうに覗き込んでいた。
「すごい汗だけど……大丈夫?うなされていたわ」
リアンが、ヒョイッと身軽に起きて、タオルを持ってきてくれる。
悪い……と汗を拭う。この夢は久しぶりに見た。そしてもう眠れなくなった。
「もう寝れそうにないから、自室へ行って仕事でもするよ」
リアンまで起こしてしまうことはないと、そっと出ていこうとすると、ギュッと服の裾を掴まれた。え?と振り返る。ニコッと笑う。
「もう明け方なんだし、私、お昼寝するから気を使わなくていいのよ。一緒にモーニングティーしましょう」
窓の外から薄い朝の光が差し込んできている。テーブルに優しい香りのお茶が置かれる。
「朝早くから悪いわね」
リアンがそうメイドに労うと、彼女は笑って、もうこの時間に起きている者達はけっこういるんですよと話した。
「ここにアナベルがいたら、お嬢様は寝坊しすぎなんですよって言うわね!」
お茶を飲みながらそう言うリアン。悪夢のような重たい夢はお茶の湯気に溶けていく。なぜこんな夢をみたかと言えば……。
「あのさ、リアン、今度コンラッドの戴冠式が行われる。ユクドール王国へ一緒に行くか?」
「えっ!?一緒に行ってもいいの?」
「一応二人宛てに招待状が来ているんだ」
「行きたいわ!」
緑の目がキラキラした。……こんな目をリアンがする時と言えば、華やかなパーティーや式を期待してるわけではない。
機嫌よくカップを持ち、フフフと笑う。怖い笑いだ。
「ユクドール王の゙戴冠式となれば、さぞ、盛大でしょうねぇ。ユクドール王国だけじゃなく、他国の情報を手に入れるチャンスね!」
やっぱりそっちなのか!
「戴冠式にそんな狙いの王妃はリアンだけだと思うよ……」
「そう?」
「つくづく頼もしい奥さんだな」
やや呆れ気味で言ったのに、リアンはニヤッと笑っていたのだった。
褒め言葉じゃないよ……。
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