蛇と王妃は対峙する

「陛下が行方不明の今、代わりに王を務められるのはわたししかいないだろう。陛下捜索の陣頭指揮をとろう!大事な甥のウィルバートを探そうではないか!」


 エキドナ公爵の演説するような声が玉座の間から聞こえた。


「いや、しかし……リアン様がいらっしゃる!あの方ならば陛下を見つけられるはずだ!」


 これはガルシア将軍の声ね。


「アハハッ!女ごときに、なにができる!心配して泣いているくらいが関の山だろう」


 嘲るような笑いを含み、そう言うエキドナ公爵。その瞬間、私はバーンとドアを開けた。目の前には玉座へ座ろうとするエキドナ公爵とそれを止めようとするガルシア将軍の゙図があった。


「泣いていなくて希望に添えず、悪かったわね!」


「……むしろ見つけに来てくださいました」


 ボソッとセオドアが後ろで呟く。


「生意気な王妃はさっさと後宮にある荷物をまとめ、出ていくがいい。低い身分の者のくせに少しの間でも王宮にいられたことを感謝するんだな」


 エキドナ公爵が玉座に手を触れようとした瞬間、私の手から雷撃が放たれる。バリバリッと音を立てて、玉座の前の床が黒焦げる。


「な、なにをするんだ!この無礼で低俗な王妃は!」


「無礼なのはあなたよ。玉座に触れてみなさい?次はあなたに雷撃を落とすわよ。それはウィルバートの椅子なの。触れる権利は彼しかないわ!」


 ガルシア将軍がそのとおりだと私の言葉に同意する。顔を歪めるエキドナ公爵。


「そしてウィルバートに危害をくわえ、公爵邸の地下に拘束していた!この国の王に対して、許しがたい行為よ!」


「何を言う!どこにそんな証拠があるというのだ!」


 サッと顔を青ざめさせたエキドナ公爵に私はフフンと笑う。


「たった今、あなたの屋敷は陛下の配下である兵たちによって取り囲まれ、エキドナ公爵家の血統の者はすべて取り抑えられる。ちなみに陛下はご無事よ。ここにセオドアがいるでしょう?気づかなかった?陛下と共に囚われていた彼がここにいるということが、どういうことなのかわかるわよね」

 

 スッと私の後ろから出て、セオドアはエキドナ公爵を冷たい眼差しで睨みつけた。今にも飛びかかって斬りつけそうなはど鋭利な気配だった。


「な、なんだと……」


 私はビシッとエキドナ公爵を指さしてガルシア将軍に命じた。


「エキドナ公爵の身柄を拘束します!ガルシア将軍、反逆者を捕らえなさい!」


「え!?は!?いったい……何が起こってるのか……」


「聞こえなかった?この男は反逆者なの」


 ガルシア将軍は戸惑い、突然のことに躊躇っていたが、失礼しますと言って、エキドナ公爵の腕を掴む。振り払おうとするエキドナ公爵。


「離せ!誰に手をかけている!」


 怒鳴られるが、ガルシア将軍は腕を掴んだまま、静かだった。困った目で私に説明を求めている。


「帰ってきた陛下に聞くと良いわ。もちろんセオドアも証人として語れるわ。何が行われたのか、陛下に暴力をふるったのが誰なのかも!私は怒ってる。あなたを今すぐ断罪し、処刑台に送りたいほどに!よくも……よくも……幼い頃のウィルバートを!そして今のウィルバートを苦しめてきたわね!その報いを受けなさいよ!」


 エキドナ公爵は私の怒りのこもった言葉にを聞き、まさか……と言い出す。やっと冷静になってきたようだ。


「これは……もしや……謀られていたのか!?」


「なんのことかしら?」


「リアン王妃は権謀術数を使うと聞いた。ウィルバートにしてきたことへの……これは報復か!?どれほど前から謀をしていた……!?ダムの話を出したのも……まさかその視察で外に出ることで、狙いやすいことをわかってわざと話をしたのか!?」


 私は涼しい顔をする。


「今更、気づいても無意味ね。あなたが玉座を欲しているから手に入れやすいように、私もウィルバートもわざとあなたのくだらない挑発にのってあげていたのよ。なんでも罪を作ってかぶせることは簡単よ。だけど徹底的に潰すには簡単な罪では無理だもの。陛下への反逆罪、もしくは王妃への危害を加える。その2点であれば逃れようがないほどの罪の重さでしょう」


 ガルシア将軍が……怖えええと言っているが聞き流しておく。セオドアが似たもの夫婦ですねと声を震わせている。


「陛下を襲うものはどうなるかしらねぇ。この国の法では処刑かしら?……でも私がほしかったのはそんなものじゃないわ」


「な、何がほしかったんだ………?」


「あなたの広大な領地よ。これでエイルシア王国の税収は上がるし、正常になるの。私腹を肥やしていた財産もすべて没収させてもらうわね。ダムの建設費に当てさせて頂くわ」


 静まり返る室内。


「そしてウィルバートに、陛下に手を出すとどうなるのか、皆にしっかりと目に脳裏に焼き付けてもらいましょうか」


 オホホホと私が笑うとガクッと膝から崩れ落ちるエキドナ公爵。


 ガルシア将軍が力の抜けた公爵を連れて行く。その後ろ姿はまるで蛇がダラリとしているような姿だった。やれやれと私は肩をすくめた。今回は相手が相手だけに回りくどいやり方をしてしまったわ。


「リアン様を怒らせると怖いですね」


「あら?節操なく怒ってるわけじゃないわよ」


「わかっております。陛下は天才で最強の王妃を手に入れた幸運な方です」  


 そうセオドアが褒めてくれた。これで終わりですねと彼は言ったが………違う。


 私は表情には出さないように気をつけ、エキドナ公爵が去っていった方をじっと見た。真の敵はまだいる。裏に潜む。蛇を操る者が。

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