大切な人を守りたい気持ち
馬を駆けさせて滑り込むように後宮へ戻る。
セオドアがいつになく忙しなく、私より先に走る。誰を心配しているのかわかる。私が身代わりを頼んだアナベルのことだろう。
私とセオドアが部屋の゙ドアを開けようとすると、声がした。
「やめてくださいっ!」
アナベルだ!私より素早くセオドアが入った。二人の騎士風の兵に手を掴まれて、どこかへ連れて行かれそうになっていた。セオドアが風のような身のこなしで動く。無言で相手の腕を捻り上げ、蹴り飛ばして床に這いつくばらせる。もう一人はみぞおちに拳を放つ。苦悶の表情で倒れた。
一瞬の出来事だった。セオドアの本気を見てしまった。
「大丈夫ですか!?」
アナベルを抱きよせるセオドア。私は思わずキャー!と歓声をあげて、拍手をしたくなったけれど、空気を読んで静かに見守る。
アナベルがセオドア様と呟き、顔をあげた。頬が赤くなっている。
「怪我はないですか?」
「は、はい……あの……その……離してください」
セオドアが抱きしめてしまったことに気づいて、すいませんと謝り、慌てて離れる。
そしてハッ!とアナベルは私に気づいた。
「お、お嬢様っ!お帰りなさいませ」
完璧に私は存在を忘れられていたわね。まぁ……いいけど……。
「危機一髪だったわね。怖い思いさせてごめんなさい」
「えっ?いいえ?」
……えっ?と私とセオドアが顔を見合わせた。
「そちらの騎士の方々はガルシア将軍からリアン様の護衛をするように言われたそうです。それで、こちらの後宮の部屋はバレていて危険だから、違う所へと言われたのですが、お嬢様が戻った時に、この部屋にいなければならないと思い、お断りしていたのです」
セオドアは床に寝転がる騎士たちをじっと見た。
「セオドアさん……ひどいです……」
「ガルシア将軍の命令なんですっ……痛いです……」
シーンと一瞬静まる室内。
「すまない」
ボソッと言うセオドア。早とちりしたわけだけど、あの状況とセリフでは焦ってもしかたないと思うの……。
「ガルシア将軍がリアン様を守れと命じたのには理由があるのね?」
倒れてる騎士に私が尋ねるとまだダメージかわ大きくて立ち上がれない騎士たちがコクコクと頷いた。
「危険と思われる人物が城内に入ったといってました。誰かとは言ってませんが……」
私は目を細めた。やはりここに来てるわね。
「アナベル、ご苦労さま。私は私に戻るわ」
「そうしてください〜。もう……身代わりは嫌です」
セオドアの視線も痛いことだし、アナベルの身代わりは今回で終わりだろう。無茶なことを頼んでるのはわかる。セオドアも大切なアナベルに危害を加える者がいたらどうしようかと気が気ではなかっただろう。
大切な人を誰もが危険に晒したくないものだ。私もアナベルが大切だし、今回は一瞬ヒヤリとした。悪いことをしちゃったわ……と、さすがの私も反省する。
ごめんなさいと私は少ししょんぼりし、アナベルとセオドアに頭をさげる。これでお嬢様は無茶できませんね!とアナベルがニコッとしたのだった。
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