怒りは隠せず

 ウィル無事だったのね!嬉しい!と抱きついて涙ぐむ……というオレの妄想は一瞬で消えた。


 目の前の黒髪の少年に扮した彼女はめちゃくちゃ怒ってる。手についたオレの血を見て、緑の目が怒りによって赤色に燃えあがっている。


 抱きついて来たが、スッと離れると、仁王立ちになる。セオドアがリアン様?と声を恐る恐るかけるが聞こえていない。


「行くわよ」


 そう怒りに満ちた声で皆に言う。三騎士も口を挟めないほど圧倒している。スタスタと玄関ホールに向かっていく。


 玄関ホールに出ると手に武器を持った警備兵達がオレ達を囲んだ。


「無礼よ!ここにいるのはエイルシアの国王!陛下に手を出すつもり!?」


 ピシャリとリアンが言う。しかし警備隊長らしき人物が剣や槍を突きつける。


「ここはおまかせください」


「お守りします」


 三騎士とセオドアがオレとリアンの前に出る。


「エキドナ公爵様が帰るまでは、屋敷から出さぬようにとの仰せです」


 公爵はオレがいない間に城で王座を奪うつもりなのだろうと予想した。


「この国で誰の命令が一番重いものなのか、わからないのか?」

 

 オレがそう言うとシンとする室内。だが、声を震わせて警備兵達は言う。


「本物の王とは限らない!」


「そ、そうだ!ここにいるわけがない!」


 なんだと?とオレは一歩前に出ようとした。しかし、リアンが手で制する。そしてニヤッと悪どい笑いを浮かべた。


「あなた達、どきなさい。囲まれているのはどちらなのか見てみなさいよ!」


 な、なんだ!?と警備兵達が周囲を見まわすと………。


『えっ!?』


 オレと三騎士とセオドアの驚きの声もかぶった。


 玄関ホールの゙階段、ドア、窓から使用人たちが武器を手に構えて、警備兵達を取り囲んでいた。メイド服の女性まで鋭い目をし、明らかに素人ではない雰囲気……どういうことだ!?ただの使用人たちではないのか!?


「お嬢様、どうぞご指示を」


 執事風の男がそう言った。少年に扮してるリアンにお嬢様と言うということは、クラーク家の゙者たちか!?


「動けばやられるのはどちらなのかわかるわよね?大人しく武器を捨てなさい!この屋敷の使用人たちが入れ替えられていたことに気づかなかったの?」


「なっ!?使用人たちが入れ替わっていただと!?」


 動揺する警備兵達にリアンはさらに外を指差す。


「外をご覧になったら?陛下の゙お迎えが来てるわ。これでも偽物と言えるの?」


 外?と皆が顔を向けるとワアワアという声がした。


「陛下〜!」


「来ましたよー!」


「陛下を出せー!」


「ここを突き破るぞーっ!」


 城の兵達が集まってきていた。ポンッとエリックが手を叩く。


「そうそう。呼んでいたんだった」


 そうだ。オレの予定では屋敷ごと兵に抑えさせるつもりで、エリックに兵を呼びに行かせていた。抵抗するものはすべて斬り捨ててよし!屋敷も焼いてやる!と思っていたんだけどなぁ。ちょっと話が変わってきたぞ。


 カランカランと武器が床に落ちた。警備兵達は抵抗することなく落ちた。使用人たちはクラーク家の゙息がかかった者たちなのだろう。任務完了したとばかりにニヤッとしていた。その顔は……どこかリアンの父に似ていた。リアンの父が何者なのか、少しわかりかけてきたぞ。だが、それは後の話だ。今は……。


「リアン……えーと……」


 話しかけると、リアンはクルリと振り返り、慌てた様子で言う。


「護衛を一人貸してもらうわ!急ぐわよ!ウィルは後から帰ってきて!」


 えっ!?えええええ!?


 オレが止めるより先に走って行く。それを慌ててセオドアが追いかけていく。


 な、なにするつもりだよ!リアーーン!!


 止めようとするオレの手は空を切る。ここの処理もしなきゃいけないから、まだリアンと一緒に行けない!


「陛下!ご無事ですか!?」


 駆け寄る兵たちにオレはリアンが気になりつつも王として声を張り上げた。


「エキドナ公爵によって囚えられた!これは反逆罪だ!これより屋敷を抑え、エキドナ公爵の身柄も拘束する!エキドナ公爵の家族も親族もすべて拘束せよ!」


 ハッ!とオレの命令に動き出す兵たち。


 オレとリアンの策が2つ重なった。考えていた事は同じだった。


 エキドナ公爵はオレかリアン、どちらかを狙ってくる。むしろ、そうさせようとわざと煽ってすらいた。だからリアンではなくオレに矛先が向いてラッキーとさえオレは思っていた。


 しかしリアンはまだ先があるのか?そうだ……ここにはエキドナ公爵がいない。怒りに満ちた彼女は間違いなくエキドナ公爵へ対峙しに行った!


 リアンを追わないと!そう思いながらも、王に手を出した反逆罪という形をここで作り上げなければならないのがオレの役目だとわかるから行けない。


 エリックがオレの焦りまくっている思考に気づいて言った。


「心配されずとも大丈夫じゃないかなぁ?セオドアが着いていったし、陛下、ひとまず演技おねがいします」


「あ……ああ。えーと……この傷はエキドナ公爵にやられた……うっ……なんか痛み出したぞ……」


 陛下、大丈夫ですか!?と膝をつくオレを周囲の兵たちが心配したりなんてことを陛下に!!と怒る声がしたり……。


「なかなか上手ですね。エキドナ公爵のしたことをしっかり印象付けてます」


 トラスが褒める。フルトンが笑いを堪えている。


 下手な演技……してる場合じゃないんだけどな。

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