蛇は高笑う

「ここへ入れておけ」


 そう何者かが言い、乱暴に体を突き飛ばされる。目隠しされ、両手足を縛られていて受け身を取れず、石の床に打ち付ける。


「………っ!」


 痛さが体を走るが、声をあげないようにする。カチャリと鍵がかけられた音。しばらく意識が落ち、闇の中で何が起きていたのかわからない。


 気付いた時には馬車に揺られていた。しかし、予想はつく。


「ウィルバート様、大丈夫ですか?意識はありますか?」


 セオドアも一緒に連れてこられたのか。


「ああ……しかし動くなよ。おまえは意識がないふりをしてろ。これは命令だ。首謀者が来るぞ」


 外から足音がする。ブーツの音だ。セオドアは言われたとおりに寝転がり、まだ意識がないふりをした。


 ギイッとドアが開いて、カビ臭い部屋に明かりと空気が入る。


「エキドナ公爵……」


 ニヤリと細めた目、薄い唇は蛇のようだ。ゾッとする。優しい雰囲気はもう微塵もない。今では、あれは演技だとわかっている。幼い頃、気づいた時はかなりショックだったが……。


「さて、長く預けておいた王座を返してもらう時が来たようだ」


「王座はエキドナ公爵の物ではない」


「王家の血を濃く次いでいるのはエキドナ公爵家であり、おまえではない。平民の母親から産まれたおまえが玉座に座るなどと図々しいにもほどがある」


「やっと本音を言ったな」


 仮面が剥がれたエキドナ公爵はアーハハハッと高笑いをする。


「もうくだらない演技など必要ない!おまえはここで餓死でもして、死んでいくがいい!」


「ここは……どこだ?」


「知ったところでどうする?あの王妃が助けにくるか?まあ、その前に男爵の身分で商人風情の家柄の娘は始末する。おまえの母親と同じ方法にしようか?それとも心配する王妃にウィルバードの居場所を教えると言って蛇の巣に叩き込んでやろうか?」


「させるか!」


 挑発だとわかっているのに、その言葉だけでカッとなり、思わず立ち上がってエキドナ公爵に体当たりしようとしたが、避けられ、床に転倒する。ならば魔法で……と思ったが、それより早く、オレの顎をブーツの先で蹴飛ばした。グッ………と声をあげかけて出さないように唇を噛み締めた。続けざまに腹に蹴りを入れられる。


 痛みで意識が遠のきそうになる。まずいリアンの方へ行ってはだめだ!リアン逃げてくれ!どうか……安全な………ところへ……。


 リアン……と呟いた声は消えた。意識が落ちてゆく。

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