ウィルの策略

「ウィルバード様!ウィルバード様!!」


 そう叫ぶセオドアの声で目が覚めた。口の中が切れたのか血が出て、錆の味がする。


「セオドア……我慢………してくれて………ありがとう」


 途中でセオドアが飛びかかるかもしれないと、ヒヤヒヤした。意識を失ったふりをしていたが、我慢できないというように拳を握りしめていたからだ。


「やられる意味がわかりませんよ!あなたのためなら、この命を賭けて血路を開きます!」


 暗闇でもセオドアが心配し、怒り、青ざめていることを感じ取られる。


「これ……は、証拠で必要だったんだ……」


 イタタタとオレは体を起こす。血を拭う。


「証拠って!?どういうことですか!?言ってる意味がわかりません」


 セオドアは自分の手枷は器用に外しており、オレの物も外してくれた。


「今から、わかるだろう」


 コンコンと外からノックする音。セオドアがバッとオレの前に立ちふさがり、守ろうと反応する。


「陛下!ご無事ですか!?大丈夫なんですよねぇ?」


「この声はエリック?」


 扉の向こう側の声のエリックにセオドアが問いかける。


「そういえば、ずっとエリックの姿が見えませんでしたね。陛下の特命を受けていたのですね」


「セオドア、気づくの今なのかよーっ!冷たいなぁ」


 オレは自由になった手で、口の端の血を拭う。


「エリック、騒ぎを起こすタイミングは任せる。事を起こせ!やれ!」


「了解しました〜っと」


 エリックの足音が遠くなる。


「エリックがここにいるということはエキドナ公爵の家だな。その地下室といったところか。狙い通りだ」


「……何か目論んでいたのはわかりました。説明してもらえますか?」


 もちろんだとオレは頷く。


「この屋敷に城の兵を呼ぶ。公爵邸の使用人たちや警備のものの抵抗に合うかも知れないが、その場合は屋敷ごと焼く。帰る家を無くしてやる。同時にエキドナ公爵の奥方、子どもたちも身柄を拘束する。反抗すれば屋敷とともに消えてもらう」


「やる時は徹底的ですね」


「当たり前だ。この国の王に手を出すと、どうなるのか見せてやらねばならない」


「その決断ができるウィルバード様を尊敬してます」


「褒めるなど、セオドアらしくないな」


「早く後宮のリアン様の元へ帰りましょう」


 オレは気づく。セオドアからリアンの名が出たが、本当は……。


「アナベルも心配だろうし、さっさと事を済まそう」


 そ、そんなつもりではっ!慌てるセオドアにオレは微笑んだのだった。オレのために命を賭けるな。おまえはもう大切な人を見つけたのだからと言ってやりたい。セオドアのことだから、余計に意固地になるし、今は言わないでおこう。

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