来客には会えず

 午後から、ウィルのお祖母様との約束があったが、それを覆す出来事が起きた。


「大変だ……陛下がダムの視察へ行った先で、陛下とセオドアの姿が見えなくなったという知らせを受けた」


 そう報告しに来たのはガルシア将軍だった。彼の顔は焦っている。同行していた者の人数はかなりいたが、まるで神隠しのように消えたと。


「なんですって……」


 私は眉をひそめる。


「陛下がいない、この出来事を知っている人達はまだ限られてるわよね?」


「まだそれほど広まってない。同行していた騎士たち、警備兵は陛下の捜索に出ているから、知られるのは時間の問題だ」


「ガルシア将軍、私の所へ来たのは懸命な判断よ!アナベル、ウィルのお祖母様との約束は私の具合が悪いとか適当に誤魔化しておいて!」


 私がそう言って振り返るとアナベルの顔色が真っ青だった。………ああ、そうだったわ。と私は気づく。そっと肩を抱く。


「大丈夫よ。アナベル」


「お嬢様……お嬢様はなにか察しているのですね?」


「もちろんよ。あなたが大切に想ってる人もちゃんと一緒に連れて帰ってくるわ」


 その私の言葉にハッとするアナベル。だが否定することなく下を向いて頷いた。涙をこらえている。


「あの人をどうかお願いします。自分が犠牲になることをなんとも思わない人なのです!どうか……お嬢様……」


 ギュッとアナベルを私は抱きしめた。微かに震えている。


「ガルシア将軍、念のため、城の警備を厳重にし、私が帰るまでは客人を誰一人として入れないで。それが王家の者で濃い血筋だと主張している人だとしてもね」


 その言葉の裏にあるものに気づき、苦い顔で頷くガルシア将軍。


「リアン様、お供します。フルトンも呼び出しました」


 トラスがそう言う。私は頷く。事は動いた。ドレスは脱ぎ捨て、身軽な服へと着替えた。私とバレないように黒髪のウィッグをつけて、少年のリアムになる。


 馬はすでに用意してあり、フルトンがいる。


「リアン様、足が早い馬を用意しておいたが、本当に我々だけで充分なので?なぜ陛下のいなくなった先をご存知なんですか?」


「後からわかるわ。囚われのキングを助けに行くわよ」


「ウィルバート様はホントに変わった王妃様を娶ったものだな」


 フルトンが楽しそうにそう言った。対照的にトラスが陛下に怒られることを覚悟してますと悲痛な顔をした。


「急ぐわよ!これは時間との勝負なの!」


 三騎士のうちの二人を連れ立って馬で駆けてゆく。ウィル……どうか無事でいて!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る