情報収集は密やかに行われるべき
エキドナ公爵を調べれば調べるほど腹が立つ。彼のせいでウィルが辛い目にあっていただろうということがわかるからだ。
「お嬢様、今回のお勧めはこちらのネックレスとイヤリングのセットでございます。お嬢様の緑色の目とペリドットの石はお似合いかと思います」
クラーク男爵家の商人が来ている。私はお勧めされたものを買う。毎回買う。その目的は1つだけ。
「それ頂くわ」
「ありがとうございます」
一礼する商人。どうぞ手に取ってみてくださいと私に渡す時に囁く。
「リアン様、エキドナ公爵は危険な相手かと思いますよ。お気をつけて」
顔色を変えず、私は素敵なネックレスとイヤリングねと無邪気にそう言った。
いつも通り、私の欲しい情報がネックレスとイヤリングが入ったケースの下に隠されていた。
買い物が終わってアナベルにお茶を淹れてもらっているとウィルがやってきた。
「今日は仕事はもういいの?」
ウィルがまぁねと言って、自分もアナベルにお茶を貰って私の隣に座った。
それから皆は出ていくように指示をする。二人きりの時間が欲しいんだーとニッコリ笑う。なんだか……甘えたい気分なのかしら?珍しいわ。
温かいお茶と共にバターの香りがするマドレーヌをサクフワッと食べる。ウィルにも勧めるとありがとうと、貰う。
「それで、リアンはどんな情報が欲しかったんだ?」
「……うっ!ゲホッ!あつっ!………ええええっ!?」
私はお茶にむせる。ウィルがやれやれと呆れた顔をした。
「さすがにそろそろオレだって気づくさ。そんなに買い物好きじゃないだろう?ドレスや装飾品より絶版になった本を探してプレゼントするほうがリアンは喜ぶのに、なぜわざわざ自分で実家の商人を呼ぶ必要があるか?それは商人を使って情報がほしいんだよな?」
ダラダラと冷や汗が出る。ちょっとバレてるかな?とは思ってました。
「なんの情報が欲しい?……あのさ、言うまでもなく、エイルシア王家も諜報活動してるんだ。リアンが欲しい情報はこれだと言えば探らせるが?オレに言えないことなのか?」
「えっと……その………そんなことはないんだけどね」
ウィルにとっては叔父さんにあたる人を調べてましたーなんて感じ悪いじゃない?前回はウィルの友であるコンラッドを調べてたし……すごく疑り深い嫌な女じゃないかしら?私って……そのうち、ウィルの浮気調査とかしそうな自分に怖い。いやいや……そこまでしないわよ。
「百面相してるよ?リアン?」
ニヤリとウィルは笑った。余計に焦ってくる私。
「先日、オレにそんな顔してるとバレるわよと言ったから仕返ししただけだよ。別に商人には商人の情報ルートがあるから、そっちのほうが都合が良いなら使えばいい。予算も取っておこう。クラーク家にかなりお金を使わせてるだろう?」
「うっ……察しと理解が良すぎるわ」
私は言葉に詰まる。もうそのとおりです!としか言いようがない。
「で、何を調べてる?」
「ごめんなさい。あなたの叔父様のエキドナ公爵よ」
ああ……なるほどと頷くウィル。
「やけに領地が大きいし、羽振りもいいし、政治にも口出ししてくるし……なんだか違和感があるんだけど?」
「昔から彼は厄介だった。王家内でも随分懇意にしてるやつらが多かった。粛清と同時にエキドナ公爵も……と思ったけど、うまくしっぽを隠してて無理で、飼い殺そうとしたんだ。広い領地と特権を与え、裕福で満足いく暮らしをしていれば玉座などどうでもよくなるだろうってね。でもそれは違ったようだし、放置してる間に莫大な富を手にし、王家に乗り込んで来ようとしている」
「さらっとすごいこと暴露してるんだけど?」
うん……とウィルは頷いてから私の目をジッと見つめた。
「最近、また玉座が欲しくなったのか、動き出している。オレの母はエキドナ公爵に毒殺されたと見て間違いない」
ガシャンと私はカップを掴みそこね、テーブルにこぼしてしまう。ウィルはそんな私を微動だにせず、みつめていた。
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