いずれ話す時はやってくる
「リアンがエキドナ公爵の夜会に行くって!?」
オレは思わず執務中ということを忘れて叫ぶ。
「そうです。どうされますか?」
セオドアが険しい顔をしている。セオドアもエキドナ公爵の危険性は十分知っている。
「止める」
執務中だが、しばらく抜けると告げて席を立つ。
後宮に行くと、リアンがあら?と驚いた顔をして、本から顔をあげた。ピチチというさえずりを聞いて目を向けると、色鮮やかな綺麗な羽根の色をした鳥が籠の中にいた。
「どうしたんだ?その鳥?」
「こんな時間にやってきたウィルにどうしたの?と先に聞きたいわ。鳥は朝、窓を開けたら迷い込んできたのよ。捕まえようと、皆が大騒ぎだったわ」
逃がしてあげるわねとリアンは籠の中の鳥を出し、窓からバサッと羽を羽ばたかせて、外へ飛び立つ鳥を見送った。
なるほど……とオレは頷き、本来の目的を話す。
「エキドナ公爵の夜会に出席するんだって?」
リアンはそうよと迷いなく答えた。……彼女はエキドナ公爵が苦手だったはずだが?嫌な風もない。
「何を考えてる?」
「私が行動することにすべて意味があるわけじゃないわよ?警戒しすぎよ!この国で最大の領地を持つ公爵様のお誘いは断りにくいのよ。それに豪華な夜会だと聞いたから一度は行ってみたいと思ったの」
フフフとリアンが笑う。
「行くな」
オレは笑えない。そしてリアンに母のことやオレの過去を話すべきかどうか迷う。なぜ迷う?と問われたら……リアンはたぶん聞けばエキドナ公爵に報復しにいく。オレの過去であろうがなんであろうが、怒る気がした。
リアンの愛は普段はずかしいと言って、あまり出さないのに……実はその感情は激しい。いや……愛されてる感は嬉しいんだけどさ。行動が怖い。ヒヤヒヤするんだ。
「真剣な顔しちゃって!そんな深刻にならなくても大丈夫よ」
軽く言うリアンにオレは眉をひそめる。
「大丈夫よ。………飲み物も食べ物も口にしないし、トラスに同行してもらうわ」
ギクッとした。リアンはもしかして……エキドナ公爵のことを察している?オレの母の亡くなった原因とか……?
「エリックも連れて行ってくれ……1時間。1時間だけの出席なら許す」
「1時間。けっこう短いわね」
うーんと腕組みしているリアン。行く方向らしい。どうしてそんなに行きたいのかわからない。
「いいわ。それでウィルが安心なら1時間だけ行ってくる!」
「気をつけろよ」
リアンの緑の目が強気にキラリと光る。なんだろう?何も知らないはずの彼女なのに……なにか仕掛けようとしているように見えるのは気のせいか?
「なんて顔をしてるの?……エキドナ公爵とウィルバートに何があったのか私は知らないわよ。でもそんな顔していたら、私にバレちゃうわよ?」
え!?とオレは驚く。
「エキドナ公爵の話をする時、ウィルはなんだか変だもの」
ちょっと屈んでと言われる。オレは少し膝を折る。いきなりリアンが俺の頭をヨシヨシと撫でる。
「リアン!?」
ニコッと微笑む天才で最強の彼女は言った。
「元気出た?」
ププッと後ろでセオドアが笑いを堪えられなくなり、吹き出した。アナベルはニコニコして微笑ましいですーと笑ってる。オレは思わず赤面した。これではまるで子どものようだと。
執務室へ戻る途中で、セオドアは言った。
「リアン様には敵いませんね」
一生敵わなくて良いよ……もう彼女のライバルにすらなれないくらいだよと思った。心の奥に灯りが灯る。穏やかで、温かい灯りだった。
エキドナ公爵のことを話さなければならない。それは幼いウィルバートが恐れていたことや孤独の中にいたことをリアンに知られてしまうことになる。
彼女はその時、どんな顔をするだろう?
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