苦手な相手からの招待状
結局のところ、護衛はこのままトラスに頼むことをウィルが決めた。冷静な彼に戻って良かった。
「エリックとリアンは馬が合い過ぎる気がするんだ。フルトンだと二人で暴走しそうだし、セオドアは最近、仲が良いしな……」
『仲良くない』
セオドアと思わず声が重なるが、それも面白くなさげに見るウィル。あんまり戻ってないかも……ま、まぁ、良いのよ。セオドアはウィルの影武者だから傍に居てあげてほしいわ。
トラスはハァ……と苦痛そうにため息を漏らした。
「正直言いますと、かなり王妃の護衛は苦手です。サボって………いえ、怠惰に過ごしてる姿を見ると、非生産な行動に心がザワつくといいますか、もっと真面目にしてほしいといいますか……」
「リアンが怠惰に過ごしてることは、この国が平和な証拠だよ」
ウィル……それはすごく前向きな発言だわ。私のゴロゴロと暇そうにする姿に国家の平和を読み取るのは世界広しと言えどウィルバートくらいだろう。
お気づきの方もいるだろうけど、戦から帰ってきて、私の行動範囲はまた後宮→図書館→庭→後宮の範囲でしか動いてない。たまーに夜会や外交に必要な時は出てるけど。
トラスがモヤモヤするのも無理はないと思うわ。特に事件が起こるわけでもない日常を過ごしているので、動くこともないし。
私が呑気にそう思っていた時だった。
「お嬢様、招待状が届いてます。珍しいお方からです」
アナベルの顔が微妙に曇っている。相手はどうやら私にとって好ましくない相手らしい。
「エキドナ公爵?」
私のことをよく思っていない彼から招待状?行くわけないでしょ。燃やしてやろうかしら?と蛇の家紋が入った手紙を見てそう思う。
そもそも蛇に王冠を被せる家紋なんて図々しい事この上ないわ。この家紋だけで……ウィルは言わないけど、なんとなく察する。公爵は自分が王に相応しいと思ってるのだろうと。
「なぜ来たのかしら?適当にお断りするわ」
ポイッと机に投げ捨てる。次の手紙は師匠からだった。
『籠の中から這い出してくるものがいる。気をつけろ』
「またわけのわからない手紙をーっ!師匠ーっ!」
なんではっきり書かないのよっ!アナベルがまたですかーと困った顔をしている。
………しばらく私はその師匠の手紙を眺める。投げ捨てたエキドナ公爵からの招待状を拾って読む。そしてアナベルに言った。
「よし。エキドナ公爵のご招待をお受けするわ。参りますと返事を書くわよ」
「えええっ!?お嬢様、大丈夫なんですか!?」
「それは私を心配してくれてるの?それとも……」
「両方です!」
正直なアナベルだった。私がエキドナ公爵を嫌ってることをわかってる。相手をぶっとば………じゃなくて、叩きのめすかもしれないと思っているのだ。
「さすがにウィルの次に偉い人だもの。大丈夫よ。私、無茶しないし、ガマンするわよ……たぶんね」
「たぶん……?」
不安げにアナベルはそう私の言葉を繰り返した。
「策を仕掛ける者は策を仕掛けられる者を越える狡猾さがないとね……エキドナ公爵はその才能をお持ちかしら?」
私は招待状の流麗な文字を見ながら、誰にも聞こえないように呟いたのだった。
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