第2話 自ら作るよ、新しい自分

 だいぶ遅くなったが無事帰宅したのでようやく一息できる。七海はほっとしながら冷蔵庫を開けて缶ビールを出した。昨晩後悔するほど泥酔したと言うのに懲りずにまた飲んでしまう。


 しかし、今日は変なことがあったせいでプレゼンで噛みまくって大変だった。結果としてはクリアファイルを受注できたので七海的には成功だったのだが、受注額が安かったので帰社後に報告した課長からはそっけない返事が返ってきただけだった。


 昼間の出来事が夢でなかったのは、カバンから出してテーブルへ乗せてあるあの古びた短剣を見ればわかる。一体これは何なんだろうか。あの狐耳のメイドが言っていたことが本当なら、女神の力によって異世界へ転生することができる魔法の? 短剣と言うことになる。


 でもそんなおとぎ話のようなことがあるのだろうか。確かに世の中には科学で解明できない不思議なことがあるとは言うけど、そもそも七海は文系なので科学自体がよくわからない。


 テーブルに手を伸ばし短剣を手に取ってみる。片手に短剣、もう片手に缶ビールというシュールな絵面だ。どう見ても切れ味が悪そうで、鋭さのかけらも感じられない刃をビールの缶へ押し当ててみる。すると押した分だけ少しへこんだ程度で穴が開く様子はない。

 

 あの自称女神は、短剣が必要なければこのままで生きていくと念じることで短剣自体も、女神との記憶も消えると言っていた。七海は心の中で、この先も今のままで生きていくからこんなもの必要ない、と念じてみた。しかし何の変化もない。


 逆に、今の生活には確かに疑問を感じているし、この先良くなる展望もないと思ったところ、刀身が輝いているように感じられる。それは目の錯覚かもしれないし自己暗示なのかもしれない。ということは彼女の言ったことは本当で、七海は今の自分を棄てて転生したいと思っているのだろうか。


 かといって刃物を自分の胸へ突き刺すなんてこと、とてもじゃないが恐くてできない。悩んでいてもすぐに答えは出せないのが明らかなので、まずはシャワーを浴び頭を冷やし二本目の缶ビールを開けた。


 まだ四月だと言うのに風呂上がりだと暑く感じてしまい、今開けたばかりのビールをあっという間に飲みきってしまった。これじゃ明日の朝も辛そうだと思いつつ三本目を取り部屋へ戻ると、そこには昼間の狐耳メイドが座っていた。


「ちょ、ちょっろ! あなたどうやって入ってきらんすか!?

 人の家へ勝手に入ららいでくらさいよ!」


 酔っているからか動揺しているからかわからない、もしかしたら両方が理由なのかろれつが回らない。


「まあお構いなく。

 ビールおいしい? 仕事は上手くいったのかな?」


「ま、まあそれないにうまくいきますた。

 でも会社れはあんまりほうかされなくて……」


「じゃああんまりいいお酒じゃないのかもしれないね。

 もし辛いならこっちへいらっしゃい?」


 女神はそう言って両手を広げた。あの巨大はモノへ突っ伏したらさぞかし気持ちいいだろうと思い、ふらふらと吸い込まれそうになったが、いつの間にか女神が短剣を握っていたので思いとどまる。


「もしかひて私がとびこんららさすつもりれしたか?」


 いよいよしゃべりが怪しくなってきた。普段は一人黙々と飲むだけなので、酔った状態で話をすることがこんなに難しいなんて思ったことがない。


「いえいえとーんでもない。

 ちょっとだけお手伝い出来たらいいかなって思っただけだってば」


 やはりこのメイドは自称女神というだけで、本当は悪魔なんじゃないかと思ってしまう。もしかしたら値てしまったところを刺されてしまうなんてことも考えておかなければ。しかし女神にそんなつもりはないようだ。


「もしかしたらと思ったんだけど、この短剣を刺すことが怖いんじゃないのかなってね。

 でもこれはね、ブスリと刺すものじゃないんだよ?」


 いやいやあんたが刺せって言ったんだよ! と思わず裏手でツッコみたくなるところをぐっと我慢し冷静に聞いてみる。


「れも女神さまが刺せとおったっしゃんれすよね?

 それを今りなって刺すらとあろーゆーことれすか?」


「あはは、もう何言ってるかわかんないくらい酔っぱらってるね。

 それはともかくちゃんと説明するとね、転生の意思があれば胸に刃を向けるだけで吸い込まれていく。

 逆に本心が抵抗していれば何も起きないってことだから、痛いことは何もないよ」


「そうらんれすか?

 こんら感じに?」


女神から渡された短剣を逆手に持って自分自身へ向けてみると、今度は本当に刀身が輝きだした。そして七海の意思とは無関係に、いや深層心理では願ってかもしれないが、身体の中へ吸い込まれていく。


「あはははーほんろに痛くない。

 なんろもないれすねー」


 その頭の悪そうな言葉が七海の最後のセリフとなった。



◇◇◇



 時間の経過があやふやな感覚、そもそも時間という概念が無いのかもしれない。とにかく何となくしばらく時間が経ったような、一瞬だったような複雑な感覚…… それを経て意識が戻った七海は大声を上げて飛び起きた。つもりだった。


 視界には何もなく感じるのは真っ白というだけ。壁とか空とかそう言うなにか物的なものはなにも映らない。短剣が胸に刺さっていったのははっきりと覚えているし、痛みがなかったことも確かだ。


 今この現状は自分が死んでしまった感覚なのかもしれないが、なんせ死んだのだとしても初めてのことだから、これがその感覚なのかはわかりようがない。とにかく白い、ただひたすらに白いと言うだけだ。


 その白いのが自分なのか自分以外の周囲なのかもわからないが、七海自身がここに存在しているのは意識があることから確からしい。やっぱり死んでしまったのだろうか。死体がある様子もないから、どちらかというと消滅したと言うべきか。


 これが転生と言うものなのかもしれないが、それももちろん初めての体験なわけだし、とにかくわからないことだらけだ。いったい張本人の女神はどこへ行ってしまったのだろう。


 戸惑いと不安を抱える七海は女神へ呼びかけようとしたが、そもそも声が出ない。出来るのは頭の中で考えることだけである。ただし頭がどこにあるのか自分でもわからない。いつまでこのまま放置され続けるのか不安を感じている七海を、さらに不安にさせる音が聞こえた。


『ガッ、ガガー、ザザ、ガーザーザー』


 まるで運動会の前に校長先生が挨拶するため、拡声器のスイッチを入れたときのような音。つまりマイクテストのような機械的なものだ。


 しかし続けて聞こえたのは校長先生ではなく女神の声だったので、ほんの少しだけ安心できた。


「七海ちゃーん?

 私の声、ちゃんと聞こえる?」


『はい、聞こえます』


 ちゃんと聞こえたので返事をしてみたが、耳で聞いて口から返事をした感覚は無い。返事が出来たのかどうかすら自分ではわからない。なんといっても肉体がかけらも見当たらないのだから。


「簡単に説明するとね、七海ちゃんはついさっき人間的に言うところの死を迎えました。

 でもご安心を! ちゃんと生きています!

 死んでなくなったのは肉体だけで、心はそのままだよ。

 わかりやすい言葉だと魂ってやつね」


 なるほど、やっぱり七海は死んでしまったのか。つまりもう後戻りはできず、このまま異世界で生きていくことを考えなければならないということになる。


「でも不思議だと思わない?

 人間の記憶は脳と言う肉体部分へ記憶されているはずなのに、魂だけになっても記憶が残ってる。

 ちょっと納得いかなくない?」


 そんなこと、すごくどうでもいいし考えたこともない。


「その答えは簡単、記憶と言うのは脳から取り出して外部へ保存することができるからなの。

 記憶喪失は記憶が外部へ落ちてしまう現象のことなんだよ?

 あとは、たまに他人の記憶を持った人がいるのも、落ちていた記憶が何かのはずみで入ったから。

 でも今はそんなこと全然関係ないのでどうでも良かったね。

 ここで本題、というわけで、今七海ちゃんの記憶は短剣の中に入ってるんですー」


 なんだかもう返事するのも面倒だし、そもそも何言ってるかさっぱりわからない。科学? これも科学の話なの? なんて嫌気がさしながら女神の話が終わるのをひたすら待ってみる。


「反応うっすー!

 興味なかった? ちなみに今はどこにいるでしょうか?

 正解はー 七海ちゃんの部屋でーす。

 ねえ、異世界だと思った? 思った?」


 なんでこんなに嬉しそうなんだろう。七海は口をきくことすらできないと言うのに、となんだか腹立たしくなってくる。


「魂は空中に浮かんでいて、記憶は短剣の中に入って見えない糸みたいなもので繋がってるの。

 だから肉体は無い状態ってことね。

 だから何も見えないししゃべることもできないってわけ。

 だからまずは肉体作りから始めよっか」


 見ることさえできないのに肉体作りしろって言われても、いったいどうすればいいのだろうか。なんといっても女神の話し方が、生きているときもすでに気になっていたけど、転生した? しょうとしてる? 今はもっと気に障る。なんとなく適当で責任感を感じられない話し方に感じるからだ。


 この軽いノリは七海とは別世界の人種なので、あまり交流したことがない。そもそも神様だから別人種であることは間違いないし、神様じゃないとしても狐人間だった……


「それでは肉体作成の前に、そのままじゃなにも見えなくて不便なので仮の肉体を授けましょ。

 身長が違うから最初は違和感あると思うけど我慢してね」


 そういうと、確かに自分の周囲に肉体が存在している感覚が出てきた。そして今まで体験したことの無い重さも……


「どう? これが私の身体だよ。

 結構イケてるでしょ?」


 どうやら七海は豊穣の女神の身体を使わせてもらっているらしい。と言っても視界が開けると目の前にも女神がいるのでコピーと言うことになるのか。


 そして足元には七海が転がっていた……


「ちょっと女神さま! そこに寝ているのってもしかして…… 私ですか……

 まさかこのまま孤独死腐乱死体とかになっちゃうんでしょうか!?」


「あらー、想像力豊かだねえ。

 心配しなくてもあとでちゃんと処置してあげるってば。

 転生が終わったら元の世界で七海ちゃんがいた痕跡は全部消しとくよ」


「なんだかそれはそれで切ないですね……

 両親のお墓とか退職手続とかアパートはどうなりますか?」


「どういう風にしたらいいのかなあ。

 せっかくこちらのお願いを聞いてくれたんだから、出来るだけのことはするつもりだよ。

 たとえばご両親のお墓に七海ちゃんも入れるとかどうかな?

 あ、仕事やアパートは始めからいなかったことにしておくから問題なしね」


「一緒に入れていただけるならそれでお願いします。

 お葬式とかはやらないんですよね?」


「そうね、七海ちゃん自体最初からいなかったことになるから葬儀は無し。

 私がこっそり入れておくってことになるね。

 ただね…… 火葬っていうのやつやったことないからなあ。

 うまいこと骨だけにして、なにかカワイイ入れ物に詰めてお墓へ入れておくね」


「いや…… 普通のでお願いします……」


 まったくこの不良女神の言うことと言ったら…… どこまで冗談でどこから本気なのか本当にわからなくなる。ただ、両親と同じお墓へ入れてもらえるなんて考えていなかったから、それはそれで嬉しいことだし感謝したい。それが親孝行なのか親不孝なのかは微妙なところだけど。


「それじゃ心配事も無くなったところでいよいよ本番だね。

 RPGとかでキャラクター作ったことある?

 自分が使う主人公キャラみたいなやつ」


「はい、以前少しだけやってたオンラインゲームでアバター? っていうの作りました。

 外見とか身長とか、それと…… 体型とか決められるんですよね?

 そのときは結構楽しくて時間かかっちゃいましたけど」


「そうそう、基本的には同じだよ?

 色々なゲームを参考にしてるから、キャラクター作成の自由度は高いほうかな。

 でも多少の制限があるから説明するね」」


 そう言うと女神はかなり丁寧に異世界自体のことと、キャラクター、この場合は新しい七海の身体の作り方を教えてくれた。でも難しすぎてあんまり頭に入ってこない。まあ今すぐ全部覚える必要はないし、作るのは最初の一度だけらしいから深く考えなくても問題ないだろう。


 豊穣の女神と一緒に異世界を管理している神は九名いて、それぞれにお抱えの種族がいるらしい。種族は人間含めて九種類で豊穣の女神自体は獣人という人種に属するそうだ。他にもファンタジーではおなじみのエルフやドワーフなんかもいるし、悪役にされがちな悪魔もこちらの世界では魔人といって普通の人として生活してるのだとか。


 七海の担当神は豊穣の女神なので、人間、エルフ、ドワーフ、獣人の四種族からしか選べない。一押しは豊穣の女神と同じ獣人だと言われたが、一番気になるのはエルフだった。


 生前? と言っていいのかわからないが、七海は地味で不運、取り柄無しでルックスは中の下でド近眼といいところが無かったから美人に憧れがある。しかも色白スレンダーと聞けば魅力を感じて当然だ。


 ドワーフはずんぐりむっくりした体型で、女性でもひげが生えていると聞いて即却下した。人間でもいいけれど、今までと同じだと不幸体質を引きずりそうなので避けておきたいところ。獣人は…… 確かに女神はプロポーション抜群で美しく魅力的ではあるが、人格に難があるので今のところ魅力が薄い。


「たとえばさ、異世界へ転生したらこんな生活したいって展望とか夢とかない?

 過去の転生者だと英雄になりたいとか、強くなりたいとか、世界中を旅したいとか聞いたかな。

 希望を持って心機一転人生やり直しなんだから、なんとなくでも何かあるでしょ?」


「そうですねえ、私はあまり苦労しないでほどほどの生活で充分です。

 できれば小さな家で猫を飼って暮らしたい。

 あとはお友達がほしいかも」


「彼氏じゃなくてお友達? 相変わらず随分控えめだねえ。

 でも欲が少ないのは悪いことじゃない。

 欲は身を滅ぼすってことももちろんあるけど、それよりも欲は人を忙しくするからね。

 七海ちゃんが望む生活から遠のいてしまうと思うよ」


「向こうへ行ったらなにか仕事とかあるんでしょうか?

 自給自足が必要でいきなり飢え死にとか勘弁なんですけど……」


「その辺りは当然うまくやったげるから心配しなくていいよ。

 それより、ペットを飼って暮らしたいならやっぱり獣人が一番だね。

 動物を飼い馴らす能力って言うのがあるんだけど、それが一番得意なのが獣人ってわけ。

 ほかにも怪我や病気が勝手に治ったりする能力も高くて、生存能力に優れてるの」


「なんだかいいことづくめですね。

 まさかなにかの罠ですか?」


「疑い深さ極まれりって感じだねえ。

 実際には、種族によって得手不得手があるってだけなんだけどさ。

 エルフや魔人なら魔法に有利とか、ドワーフは生産が得意とかあるから獣人だけ優遇とかないよ?

 でもカワイイ耳と尻尾があるのは獣人だけ!」


 女神の姿を借りている今は、尻尾や耳に神経が通っていて自在に動かせる。その仕草は確かにかわいいし、獣人と言っても狐だけじゃなく色々な種類が選べるようで個性豊かではある。


「猫が好きならネコ科の動物をベースにした獣人なんていいんじゃない?

 ライオンや虎にチーターとかあるし、もちろん猫もいるよ?

 おススメはもちろん狐だけど、マニアックなところで羊や牛なんて草食動物でもいいね。

 ほかにもウサギやリスなんて小動物も選べちゃって超お得!」


 この獣人押しは一体なんなんだろうか。なんでもできる神様なんだから、きっと自分の姿を変えることも簡単にできるはず。ということはこの女神が狐の獣人姿をしているのは、自分の趣味なのかも?


 七海が営業として働いていた時の担当区域には秋葉原が含まれていたので、いわゆるケモミミキャラを見かけることはザラだった。でもそのほとんどはデフォルメされた刀身の低いキャラクターだったし、受注したグッズでもそんな感じのものが殆どだった。


 さらに言えばエルフっぽい尖った耳をした女性のイラストもそこかしこで見かけたから、どちらにしたとしてもなんとなく馴染めそうな予感はする。でも二度と変更できないと言われると、失敗は許されないのだから簡単には決められない。


「あとね、獣人は妖術で変身することができるから人間にもなれるし、四本足の獣にもなれるよ。

 逆に獣人になる魔法は無いんだ、これが不思議なことにね」


「魔法と言うのは誰でも使えるんですか?

 さっきの説明で、いわゆるファンタジーに良くある、剣と魔法の世界というのはわかりました。

 動物をペットにする能力とか、生産でしたっけ? 何かを作る能力とかはどうなんですか?」


「良い質問だね、種族に関係なく能力を覚えて使うことはできるよ。

 でも得手不得手は一生変わらないから、使いたい能力にあった種族がいいよってこと。

 私の担当外だけど、戦闘第一なら有角人や魔人が超おススメだしね」


「そういう風に説明されると確かに獣人は良さそうですね。

 でも美人エルフにも憧れちゃいますし…… すぐには決められません……」


「時間はいくらでもあるから好きなだけ悩んでいいよー

 試しにアレコレ作ってみて気に入ったのが出来たら決めればいいしね。

 今作成画面出すけど、基本的な操作はタッチで選んでいくだけだからすぐわかると思うよ」


 女神の言う通り、目の前の空中にパソコン画面のようなものが現れた。一番上には種族ボタン、両端に身長や体型、色形柄などの項目が並んでいる。プレゼン資料の図を作る時に使っていた機能と似たような物だろう。


「わかりました、それじゃ試してみますね。

 わからないことがあったら相談します」


「はいはーい、それじゃごゆっくり~」


 目の前に表示されている画面を見ていると少し楽しくなってきた。ゲーム自体それほどやったことはないが、ファンタジー小説は好きだったし、過去をさかのぼれば魔法少女アニメが大好きだった七海だ。それはともかく、女神は女神でやることがあるのだろう。背中を向けて何か始めている様子だ。


 しかしここからが大変だった。作成操作自体は直感的で、プレゼン資料よりもはるかに作りやすい。でもその作りやすさが罠で、どれも良く見えてしまい決めかねてしまうのだ。


 エルフも獣人もどちらもかわいいし、自分がその姿で動いているところを想像するとさらに楽しくなってくる。七海は夢中になって作成を繰り返す。


 作り続けてどのくらいの時間が過ぎたのだろうか。疲れもしなければお腹もすかないので、時間経過がさっぱりわからない。おそらくは百回以上作り直したはず。一回五分としても六時間くらい続けていることになる。


 時間が大分経ってそうだけど問題ないかと女神に尋ねようとすると、彼女は横になって熟睡しているようだった。言われたわけではないが、多分時間をかけすぎているのだろう。


 最終的に七海は獣人を選択した。ベースとなる動物をアレコレ眺めていたら、子供の頃に両親と出掛けた動物園で見て、その記憶が鮮明に残っていたフェネックがいたのだ。想い出の動物は何ですか? なんて質問をされたらきっとフェネックを上げるだろう。


 色は自由に決められるので、純白の毛色を選び、豊潤の女神を真似て耳と尻尾の先だけ山吹色にしてみた。女神自体の性格や話し方はいまいちだが、ルックスはステキで思わず真似したくなるのがちょっと悔しい。ちなみにプロポーションはお尻を小さめにしておきながら、バストはDカップくらいで七海の頃よりもかなり大き目にしてしまった。


 自分で作っておいてなんだけど、大きくて横に広がったフェネックの耳と太目でふわふわした尻尾、それが真っ白な毛並みと相まってかなりかわいく出来た。全身に毛が生えているのが気にならないわけじゃないけど、返ってムダ毛処理とか余計なことに気を使わずに済むともいえる。


 ようやく容姿が決まったので、完全に熟睡している様子の女神を揺さぶって起こした。むにゃむにゃ言いながらようやく目覚めた女神は、七海が作った獣人を見て、上手にできていてかわいいと大満足な様子で褒めてくれたが、その理由のほとんどが狐の獣人だからという理由だと思うとちょっと複雑な気分になる。


 まあ真意はわからないが、耳をぴくぴく動かしながら尻尾を振っているのを見ると、おそらく当たっているだろうなと考える七海だった。

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